ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
「……甘いな」
「蜂蜜入れたからね」

 そう言いながら、夫を見つめる。唇にミルクが残ってちょっと白い。つい気になって、無意識のうちに指で拭ってしまった。唇の柔らかな感触が心地よい。

「子供扱いだ」

 そう呟きながら慶一さんが私の手首をそっと掴む。そうしてニヤリとした笑みを浮かべると、片手で蜂蜜のボトルキャップを開け、私の指に一滴それを垂らした。そしてその指を私の唇に持ってゆき、まるで紅を差すように塗ってしまう。

「うわ、べたべた」

 素直に慶一さんの言いなりになって自分の指の主導権を明け渡してしまったけれど、その結果がこんなイタズラとは。文句を言いかけたところで慶一さんが立ち上がり、こちらに回って私の肩を抱くと、ぺろっと唇を舐めてきた。

「ふぁ!」

 驚いた拍子に口が開いて、すかさず彼の舌が入ってくる。ちょっと残ったミルクの風味と、私の唇に付いた蜂蜜が混ぜ合わさって、口の中に柔らかい甘さが広がった。

「ん……」

 ふわふわとした気持ちになって、口の中の快楽を愉しんで、最後に蜂蜜でベタベタになった指も舐られた。

「同じ甘いなら、こっちの方がいい」

 そうして耳たぶを甘噛みしてくる。

「や、駄目。夕飯前。それにお仕事大丈夫なの?」

 流されまいと必死に抵抗して言ってみたら、私の胸元に顔を埋め、慶一さんが唸った。そして勢いよく顔を上げ、私の目を見つめて宣言する。

「一時間」
「はい?」
「これから一時間で仕事終わらすから」
「はい」
「そうしたら、一緒に飯食って風呂入ろう」

 一緒にお風呂?

 かなりインパクトの強いおねだりで戸惑ったけれど、まあいいかと思い直した。面倒くさいお仕事のご褒美が私なら、本望です。

 今度は私の方が抱きついて、一瞬だけ触れるような口付けをした。

「待ってるわ、ダーリン」
「約束だよ、ハニー」

 そして二人で顔を見合わせて、こらえ切れずにまた笑った。

 そんな二人に呆れたように、足元でクロが盛大にあくびをした。



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