ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
 力尽きて、私を支える目の前の胸に倒れ込む。それでも彼の腰の動きは止まらなくて、余韻の上に新たな刺激を上塗りされる。堪らず悶えると、彼のものがさらに奥に入り込んだ。

「紗江……!」
「ぅんっ」

 最後に深く突かれて、私は慶一さんをお腹の奥で受け止めた。ぎゅっと抱きしめて、彼の胸を頬ずりする。幸せだなぁってしみじみ思って、へらっとした笑みが浮かんだ。

「紗江、俺、もう眠い……」

 ため息のような声がする。

「駄目です。ちゃんとそれ洗って、パンツ穿いて」
「このまま寝たい」
「お腹冷やすよ。ほら、シャワー浴びて」

 なんか一気に現実に戻ってしまった。慶一さんを浴室へ追い出すと、私はパジャマの上だけ羽織った状態で、シーツを取り替える。彼と交代で私もシャワーを浴びて後始末をして寝室に戻ったら、もう慶一さんは夢の中だった。今日は木曜日。まだ明日も仕事があるものね。分かっているのに、ねだったのは私だ。

「……ごめんね、慶一さん」

 ベッドに入って、彼の髪の毛を梳くように撫ぜながら小さく呟く。電気を消して、暗闇の中、目を瞑る。

 お腹の中、さっき受け止めた慶一さんの精がじんわりと染み込んでいく気がする。それと共に、広がってゆく私の感覚。部屋を満たし、壁を抜け、リビングに広がり、キッチンを辿り、このマンションの一角に住む私たちの家の隅々まで、私の意識は張り巡る。

 大丈夫。ここには、悪いものはいない。

 索敵が完了し、それでも治まらないこの感覚に、ふと玄関の外まで意識を向けようとした。その途端、寝室の片隅で何かが動く気配がする。今までそこに居るだけだったモノ。それが身動ぎしただけで、私の行き過ぎた好奇心を咎めていることが感じられた。

「分かったよ。あとは、明日……」

 小さく欠伸をすると、私は慶一さんの腕をぎゅっと抱きしめる。けれどちょっと思い直して、片手をベッドの外に差し出した。

「お前も一緒に、寝よ……」

 規則正しい夫の寝息に誘われて、私の眠気がピークに達する。眠りに落ちる直前、黒い犬が私に頭を撫でられているのが見えた気がした。
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