ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
 成長するにつれ、自分のこの能力が危ういものであることを実感した。物事の分別がつく前に線引きをしてくれた神様には感謝だ。だからこそ、まさかの大人になってからの能力復活に、色々と戸惑うこともある。

「なにより、慶一さんに秘密なのがね……」

 そう呟きつつ、家を出た。夫に秘密。プラス、若干の後ろめたさ。それはクロ可視化現象と共に湧いた、もう一つの現象のせいだ。



 ◇◇◇◇



「さてと」

 家から実家兼職場兼神社まで、歩いて二十分弱。電車を使うには駅まで遠回りしなければ行けないし、とはいえここら辺は電車の便がいいせいか、バスの本数が極端に少ない。都会っ子は二十分なら迷わず徒歩を選択する。もしくは自転車。でもうちのマンション、駐輪場が抽選制で面倒だから、結局は徒歩なのよね。

 家から幹線道路まで行き、しばらく歩くと横に外れ、住宅街の中をうねうねと入ってゆく。途中のコンビニに立ち寄ると、私は文具コーナーに向かった。寄り道本命の場所に行く前に、先ず準備をしなくては。

 筆記具やセロハンテープなどがフックに引っ掛けられて陳列されているその下の段、ご祝儀袋が並べられているスペースに目を留める。全てが印刷の封筒タイプから始まり、外国人からすればもはや工芸品と思われるであろう豪華なものまで、四種類ほどが並べられていた。しばらく悩み、その中で二番目にお高いご祝儀袋を選択する。水引きに熨斗がついて、三万円以上包まないと袋に負けてしまうというランク。一番お高いのは赤系の千代紙で派手だったけれど、私が選んだのは白地に金のラインと花模様で清楚なデザインだった。こんな綺麗なご祝儀袋がコンビニに行けばお手軽に買えるのだから、素晴らしい。

 コンビニを出てさらに住宅街を神社のある方向に向かって歩くと、数年前に家主の亡くなった空き家があった。誰が住むでもなく取り壊されるでもなく、朽ち果てるままになっている、古びた家。地元情報によると、どうやら遺産問題で揉めているとかという話だ。ここが本日の寄り道目的地。私はスマホをいじる振りをして、その家の前で立ち止まった。

 じわり。

 家の中から、変な瘴気が漏れている。

 じわり。

 まるで触手みたいだ。この家に絡み付き、寝ぐらにし、そしてこの家の前を通る人を見定めし、取り込もうと狙っている。私は静かに息を吐き出すと、意を決してその家の玄関を見つめた。

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