イケメン保健室・病弱少女の恋愛相談
 見覚えのない天井を見た。薬臭くて入院中かと思い慌てて身体を起こせば、酷い眩暈に襲われる。クラクラして気持ち悪い、私は何でここにいるんだっけ……?

「大森、入るぞ」

 その言葉でベッド周りのカーテンを開けたのは先程の養護教諭の善養寺先生だった。伸びた黒髪をかきあげる。

「気分はどうだ? 顔色は相変わらず悪いが……少しは眠れたようだな」

 そうだここは保健室だ、先生に抱き上げられてベッドに寝かされた。随分と長い夢を見た気がする。思い出したくない過去や、いやむしろ今の現実の方が思い出したくなかった。

「もうすぐ昼休みだけどどうする? 教室辛かったらまだ寝ていても構わないぞ。飯は?」
「お腹空いていないです、もう少し横になっていたい……」
「何か食べた方が良いんだけどな、購買で何か買ってきてやろうか?」
「い、いい! 何もいらない」
「どうして?」

 食べたら太ってしまうからじゃないか。空腹でないわけじゃあないけれど、それと引き換えにする一口の方が嫌だ。先生はきっとその気持ちがわからない。だから私はいつものように嘘をつくことにした。

「クラクラして気持ち悪いから、何も食べられそうになくて……もう少し休んだら、食べる気になるかも」
「そうか、じゃあまだ寝てろな、何かあったら俺を呼べ」
「はあい」

 そう言って先生は再びカーテンを閉めた。その瞬間の緩んだ顔に、少しときめいてしまった自分に少し心がざわつく。いわゆるイケメンって言うのは先生みたいな人のことを言うのだ。背も高くて声も心地良い。あの先生が私を軽々と抱き上げた、力もきっとあるのだろう。惹かれるのはすぐのことで、次第にカーテンの向こうに彼がいるということだけで、過剰に意識している自分をどうしたら良いのかわからなくなってしまった。
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