イケメン保健室・病弱少女の恋愛相談
 冷たい水でずぶ濡れになった。人影のないトイレの個室に閉じ込められて、上からバケツの水を何度も何度もかけられる。夏には早く、トイレも寒い。

「ケホンッ! や、やめて……!」
「生意気なんだよ、ベタベタ善養寺先生に近づかないで!」

 先生の特別だと思ってるんでしょう? 数人の名前も知らない上級生達が私を個室から出してはくれない。水をかけられるたびに息が出来なくなる。何度も懇願したが、聞くような人たちじゃないようだ。
 それは私の勘違いの言葉、そうだったらどんなに良いと思ったことか。
 抵抗することをやがて私はあきらめて、気がつけば制服はシャツから下着が透けるくらいに水が滴っている。一時間目のチャイムが鳴って彼女らは教室に戻っていったが、ドアは固くしめられたままで、私はただトイレの中で泣いていた。こんな姿じゃドアが開いても教室には行けない。全てにあきらめていたそのときだった。

「おい、誰かいるのか?」

 静かだったトイレ内で聞き覚えのあるその声が、私の心に響き渡った。

「ぜ、善養寺先生……!」

 ***

「タオルは足りるか? もう一枚あるぞ」
「大丈夫、すみません」

 保健室のベッド周りのカーテンの向こうには先生がいる。着替える場所が他にないから、先生にカーテン越しに手伝ってもらいながら私は保健室に置いてあった着替え用の体操着を貸してもらう。置いてある中で一番小さなサイズだと言うから借りてみれば、私には大分大きい。下着も濡れていたけれど、換えがあっても借りづらいから我慢する。身体はすっかり冷え切っていてタオルで拭っても寒くて仕方が無い。着替え終わってカーテンを開けると先生は眉をひそめて私の頬に触れた。

「随分と冷えているな、寒いんじゃないのか」
「少し」
「来い、髪も乾かさないか」

 新しいタオルを持って来た先生は私の長い髪を優しく包み、時間をかけて拭き続けた。その感触に極まって、私の目からは涙が流れる。先生黙って涙を指で拭い、そっと背中を包んで抱きしめてくれた。

「冷たい、くちびるの色も真っ青だ、寒いな」

 先生の体温が染み渡る、どこの香水だろう、先生の胸元は優しく温かい良い香りがした。
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