排球の女王様~私に全てを捧げなさい!

 *

 谷の興奮した中継始まる。

「泣いても笑ってもこれが最終セットです。第5セットは15点先取した方の勝利となります。このセットをとり、群馬の頂点に立つのは王者狼栄か、それとも犬崎か……ここからは目が離せません」


 第5セット開始。

 
 充からのサーブ。

 充が莉愛に視線を向けると、莉愛が大きく頷いた。『決めなさい』充はそう言われた気がした。

 
「バンッ」

 サービスエース!

 それは莉愛と充が密かに練習していたサーブ。ここぞと言う時に使おうとしていた必殺技。ジャンプフローターサーブだった。

「ナイスサー、充!」

 充、すごい……すごいよ。

 ここで決められるのが、すごい。

 充が親指を立てて最高の笑顔を莉愛に見せる。莉愛も充に親指を立て、笑顔で返すと、それを見て面白くない人物が一人いた。

 それは相手チームの大地で……仲良くサインを送り合う、充と莉愛に嫉妬していた。

 俺はどんなに莉愛にサインを送っても返してもらえないというのに……。

 それは、現在、莉愛と大地が対戦中だからと言うだけなのだが、大地の莉愛への思いは限界に来ていた。 

「あ~あ、更に火を付けちゃったな」

 翔が小さく呟いた声に、谷が面白そうに問いかける。

「大崎大地選手の事ですね」

「はい。今ので完全にスイッチが入った感じがするんですよ。限界だったんじゃ無いですか?」

「何の限界ですか?」

「あの二人は、今大会が始まる2ヶ月前から連絡を取ることを止めたらしいんですよ。馴れ合うのは良くないし、情が湧いて本気を出せなくなっても困るでしょう?頑張ってここまで我慢してきたのに、決勝という舞台で、どんなに莉愛にアピールしても睨まれるだけで……、今みたいに目の前で、立石充には笑顔を向けるんですよ。自分には向けられない笑顔……俺なら耐えられないし、やってられないですよ」

「確かにやってられないですね。切ない。それであの怒りの表情な訳ですね。それにしても、大会のため2ヶ月会わないなんて、引き離されたロミオとジュリエットみたいですね」

「まあ、悲劇では無いですが、二人の決意の表れですね」

「決意ですか。すごいですね。そんな話を聞いてしまうと、どちらを応援したら良いか、テレビの前の皆さんも悩んでしまうのでは無いでしょうか?ロミオとジュリエット一体どちらに勝利の女神は微笑むのか?勝利の瞬間を皆さんも、一緒に立ち会いましょう」 


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