排球の女王様~私に全てを捧げなさい!
ベンチまで戻ってきた拓真達は、崩れるように、その場に倒れ込んだ。足の痙攣が更に強まり、立っていられなかった様だ。そんな拓真達に莉愛は労いの言葉を掛ける。
「みんなすごいよ。よくここまで……ここまで頑張ったよ。ほら、顔を上げて。下なんて見る必要ない。拓真、祐樹、充、瑞樹、流星、洋介、ベンチのみんな、胸を張って、前を見て。私はみんなが誇らしい」
目尻に涙を溜めた莉愛がにっこりと笑うと、それにつられる様にして、みんなも笑った。
それから、補欠のみんなと共に、水分補給のためのスクイズボトルを拓真達に手渡し、汗で体が冷えないようタオルを体に掛けていると、体育館がざわめいた。どうしたのだろうと莉愛が顔を上げると、そこには大地が立っていた。頬から顎に落ちてくる汗を右手の甲で拭いながら、大地が莉愛に右手を伸ばしてきた。
「莉愛、来い!」
えっ……来いって……。
でも……今は犬崎のみんなと離れてはいけない気がする。
そう思いながらも、大地の元へ行き、優勝を祝う言葉を言ってあげたい。そんな対照的な思いがせめぎ合う。大地の手を取ることをためらう莉愛の背中を、拓真が押した。
「大丈夫だ。行ってこい」
後ろから囁くように小さな声がした。莉愛が後を振り返ると、親指を立てる拓真の姿があった。その後ろでは、みんなも親指を立てて見送ってくれている。
みんな……ありがとう。
莉愛は、一歩、二歩とゆっくりと大地に近づき、大好きな人の胸に飛び込んだ。
大地……。
大地の胸の中に飛び込んだ莉愛は、両手を大地の首に巻き付けるようにして抱きつき、唇を大地の耳元へと寄せた。
「大地、優勝おめでとう」
莉愛の甘い声音に、大地の体がゾクッと震え、体を熱くさせた。莉愛もまた、二ヶ月ぶりに感じる大地の体温と匂いに、胸が締め付けられ苦しくなっていた。
その様子を実況していた谷が、更に興奮したように大きな声を上げた。
「春高予選、群馬の頂点に立ったのは王者狼栄大学高等学校。そして犬崎から女王を奪い取ったーー!!両校とも、全ての力を使い果たし、素晴らしい試合を見せてくれました。両校にもう一度、大きな拍手を送りましょう」
群馬体育館にいた全ての人々と、テレビの前で応援し続けた沢山の人々が、両チームに大きな拍手を送ったのだった。