排球の女王様~私に全てを捧げなさい!
*
ここまで来れば大丈夫かしら?全力で走った莉愛は息を整えると、大地の方へと振り返った。
「大崎さん、一体何をしに来たんですか?」
「いや、だから昨日のことを謝ろうと……」
昨日のこと……。
ああ、私を男と言ったことだろうか?
「別に、いつものことなので気にしていません」
フイッと視線を逸らし、冷たく言い放つ、すると大地がもう一度頭を下げてきた。
「すまなかった。きみを傷つけるつもりは無かったんだ」
頭を下げ続ける大地の姿に、いたたまれなくなる。
この人はどうして、こんなに必死になっているのかしら?
はぁー。
莉愛はたまらず、溜め息を付いた。
「本当に気にしていませんから」
「いや、しかし……」
「大丈夫です。次はうちが勝ってリベンジするので、気にしないで下さい」
莉愛がニッと笑うと、それを見た大地が眩しそうに目を細め、笑った。
「ところで、きみの名前は?」
「あっ……私は姫川莉愛です」
「莉愛……」
えっ……。
いきなり下の名前で呼ぶ?
「俺は大地だ」
「いえ、知ってますけど?」
何だかものすごく近い距離感に、体がソワソワしてしまう。
「莉愛は来週うちのコーチに、相談に来る予定だよな?」
「よく知ってますね。そう、今週は忙しいらしくて、来週の火曜日に行く予定です。練習方法とかいろいろ聞きたいので」
「そうか、俺も練習法とか相談に乗れることがあるかもだから、連絡先教えてくれる?」
「ほぇ?」
思わず、莉愛の口から変な声が出てしまった。
狼栄のエースの練習法が聞けるとか、嬉しいけど本当に良いのだろうか?
莉愛はカバンからスマホを取り出し、連絡先の交換をした。
「大崎さんは、こんなことして大丈夫なんですか?」
そう大崎大地に聞いてみると、少しムッとした表情になってしまったため、莉愛は焦った。何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか?
すると……。
「……大地だ。さっきも言ったけど、俺の名前は大地だ」
怒るところ、そこ?
「いや、でも……」
「俺も莉愛って呼ぶから、莉愛も大地って呼んで」
呼ぶからって、もうすでに呼んでますけど?
そんな風に思っても、「莉愛」と大地が呼ぶ声が、心地よいと思ってしまう。
「じゃあ、大地……」
あきらめた様に、莉愛が大地と呼ぶと、大地が嬉しそうに笑った。