排球の女王様~私に全てを捧げなさい!
「もう、まだまだこれからだよ」
そう言って、もう一度背中を押そうと莉愛は大地に覆いかぶさる。すると大地はハッと何かを思い出した様な顔をしてから、莉愛を見つめた。
「莉愛……もしかして、このストレッチ犬崎でもやっいているのか?」
???
「うん。そうだけど?」
大地は焦った。いや、いや、いや、ダメだろう。
「莉愛はストレッチ禁止!絶対に犬崎でストレッチしたらダメだから」
「えっ……どうして?ストレッチは大切だよ?」
莉愛がチラリと金井コーチを見ると、苦笑するコーチがこちらにやって来た。
「姫川さん……その……確かにストレッチは大切なんだが……その……」
一体何がいけないのか首を捻ると、金井コーチが言いにくそうに口を開いた。
「高校生の男女がそこまでくっ付くのは、どうなのかと……」
へっ……。
男女がくっ付く?
大地に覆いかぶさった状態で固まった莉愛は、慌てて大地から体を離した。
「ご……ごごごごっ、ごめんなさい大地。嫌だったよね」
「いや、その……いやでは無いんだけど、犬崎ではしてほしくない……というか……その……」
最後の言葉が小さな声過ぎて良く聞こえなかったが、嫌では無かったようで、ホッとする。しかし、今まで犬崎でやってきたストレッチを思い出し、莉愛は顔を青くした。
私ってば、今まで何も考えずに皆にストレッチしてたよ。やっぱり嫌がられてたんだ。
んー?
そう言えば……。
「犬崎の皆はこれを、地獄のストレッチって呼んでたなー?」
莉愛の呟きに、大地の顔が青ざめた。
「確かに地獄……やっぱりダメだ。莉愛はストレッチ禁止!」
普段聞かない大地の叫び声に、狼栄の部員達は驚きを隠せずにいた。
「うわー。姫川さんのあれって、天然で言ってるんだよな?」
「アザとさが無い分、何も言えねー」
普段大地に、尊敬の眼差しを向ける狼栄の部員達だったが、現在同情の眼差しを向けていた。
頑張れ、大地さん。
俺達はいつでも大地さんの味方ッス。
ご愁傷様ッス。大地さん。
そんな風に後輩達に憐憫に思われているとは、知りもしない、大地であった。