排球の女王様~私に全てを捧げなさい!

 *

 夜となり、莉愛は夜風に当たりに外へと出てきた。涼しい風が、お風呂で火照った身体を、撫でるように吹き抜けていく。髪をほどくと背中まであるストレートの黒髪が、サラサラと後ろへと流れていった。

 はぁー、疲れた。

 何でだろう。

 いつもの10倍疲れたように気がするのは、気のせいでは無いと思う。虫の音色に耳を方むけ、癒やしを求めていると、その音をかき消す様にスマホの着信音がなった。

 ポケットからスマホを取り出し、画面を確認すると、そこには大崎大地の文字が……。

 大地からだ。

「もしもし?」

「莉愛?今、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」

「合宿はどう?大変?」

「ん~そうだね。大学生相手だから皆バテバテで、付いていくのがやっとって感じかな」

「だよなー。大学生と、高校生ってあんまり変わらない気がするのに、試合すると大人と子供ぐらいの差が出るんだよ。経験の差なのかな?でも、良い経験になるはずだから頑張れ」

 大地からの応援の言葉に、胸が熱くなった。

「大地ありがとう」

「合宿が終わるのは5日後だったよな?」

「うん、そうだよ」

「あと5日、頑張れ莉愛」

「うん。頑張る」

 電話を切らなければいけない様な雰囲気だが、スマホの通話終了をタップするのが名残惜しい。

 そう思っていると……。

「何か、スマホ切るの寂しいな」

「あっ……それ、私も思ってた」

 大地と同じ事を考えていたと思うだけで、何だろう……ムズムズする。そして自然に思いが溢れ出していた。

「大地、好きだよ」

「……ッ……うわー。マジで嬉しいんだけど、今すぐに会いたくなる!5日も会えないとか拷問かよ」

 電話越しに何かゴトゴトと音が鳴っている。

「クスクス……大地ごめん。帰ったら会える?」

「すぐに会いに行く」

「うん。待ってる。もう遅いから電話切るね」

「そうだな。おやすみ莉愛」

「おやすみ」

 スマホの通話終了をタップし夜空を見上げていると、後ろから声を掛けられた。

「莉愛ちゃん……」

 そこには眉を寄せた島谷が、申し訳なさそうに立っていた。どうしたのだろうかと、首を傾げながら島谷を見上げた。

「島谷さん?」

「ごめん莉愛ちゃん。莉愛ちゃんの電話立ち聞きしちゃった……。莉愛ちゃん彼氏がいたんだね」

 どうせ、男女には彼氏なんていないと思っていたのだろう。莉愛はスッと島谷から視線を逸らし、冷たい口調で話した。

「そうですけど、何ですか?私に彼氏がいたらダメですか」

「…………」

 急に黙り込んだ島谷を不審に思っていると、いきなり島谷が莉愛の手を握り絞めてきた。

「莉愛ちゃん俺、生まれ変わるから。頑張るから、明日からの俺を見ていて」

「はぁ?」

 島谷はそれだけ言うと、部屋へと帰って行った。

 一体何だったんだろう?

 島谷の決意の意味を、全く理解できない莉愛であった。


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