排球の女王様~私に全てを捧げなさい!
「姫川翔って、あの姫川翔ですか?」
拓真が興奮気味に高橋に詰め寄った。
「ああ、プロバレーボール選手で、日本代表の姫川翔だ。姫ちゃんのお兄ちゃんでもあるね」
バッとみんなの視線が莉愛に集まった。
「マジかー。だからあの才能か」
「うまいわけだよな」
「兄妹そろって天才ってやつ?」
犬崎の皆がマジマジとこちらを見つめてきた。その視線に耐えきれず莉愛は視線のそらした。
「お兄ちゃんは天才かもしれませんが、私は違いますよ」
「いやいや、そんな事は無いでしょう。女子であれだけ出来るの見たこと無いよ」
苦笑する高橋に莉愛は、困惑気味に答えた。
「あー。そうかもですけど……。皆さん知らないでしょうが、お兄ちゃん本当にバレーボールバカなんですよ。ボールを常に触ってないとダメな人で……ご飯の時も寝るときもボールと一緒なんですよ。そんな人に毎日毎日毎日……練習に付き合わされるんですよ。意味分かりますか?」
そう、莉愛は幼少時、やっとボールを投げられるようになった頃から、翔の練習に付き合わされていた。これがとんでもなく大変で……。
「皆さん分かりますか?休日に一日中練習に付き合わされる私の気持ちが、練習するのは良いんですよ。私も楽しかったし、でもあの人、注文がものすごく細かくて、コースやボールの威力なんかを指定してくるんです。挙げ句の果てには相手チームのエースの癖までまねしろって言い出して……。無理だって言っても出来るまでやらされて、これが私のためではなくて、自分のためなんですよ」
力説する莉愛に、全員が同情の眼差しを向けた。
「地獄……まさに地獄の日々でした」
何かお思い出している莉愛の瞳が、遠くを見つめている。よほど辛い日々だったのだろうと、全員がかわいそうな物を見る目で莉愛を見た。
「なんかさ、姫川の上手さの秘密を知ったけど、何とも言えないのは俺だけだろうか……?」
拓真の言葉に部員全員が、うん、うん、と頷いた。