排球の女王様~私に全てを捧げなさい!

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 莉愛のやつ、相変わらず、すっげーな。莉愛はいつも俺が天才で、自分は違うと言うけれど、本物の天才は莉愛の方だ。見ただけで相手のワザを吸収し、やってのける。初めて組んだチームでも、チーム一人一人の癖を知り、合わせることも出来る。そんな莉愛にいつも練習を手伝ってもらったおかげで、俺はここまで強くなれた。対戦チームのエースのワザを莉愛に覚えさせ、練習台にさせた。癖が分かれば対処も出来る。だが、莉愛の強さはそこだけでは無い。それは空中での美しさだ。初めて見る物の心をわしづかみにし、誰もが見とれてしまうほどの美しさ。そして二度目には恐怖さえ覚える、えげつない威力。女子はたまった物では無いだろう。

 莉愛は生まれてくる時代を間違ってきてしまったのだろうか?もう少し後の時代ならば、ライバルとなりえる選手も出て来たのだろうか?ライバルがいないと泣く莉愛を、俺は何度も慰めた。

 そんなある日、莉愛がバレーを辞めた。俺はバレーボールの楽しさを思い出してほしくて必死に莉愛を体育館へと連れ出した。しかし、暗い顔をした莉愛を笑わせることは出来なかった。

 くそっ……どうすれば良いんだ。

 これだけの才能をここで埋もれさせるなんて……。

 莉愛の才能を知る大人達が必死に説得を試みた。しかし、莉愛がバレーボールを始めることは無かった。高校も犬崎を受験すると聞いたとき、大人達も俺も落胆した。犬崎に女子バレーボールチームは無い。それは莉愛の絶対にバレーボールはやらないと言う、決意の表れだった。

 その莉愛が突然電話を掛けてきて、練習試合の相手をさがしていると、相談してきた。俺は耳を疑った。また莉愛がバレーボールを初めてくれる。しかし、それは俺の勘違いだった。

「莉愛がバレーボールをするんじゃ無いのか?」

「違うよ。男子チームの相手を探しているの」


 喜びから一転、俺は肩を落とした。それでも、莉愛がバレーボールに関わろうとしていることが、嬉しかった。それからしばらく、莉愛の話しを聞いた。電話越しの莉愛が楽しそうで、莉愛の力になりたいと、そう思った。すぐに群馬国際大学の高橋に電話をして合宿を頼んだんだ。

 そいて今、男子チームと一緒にバレーボールを楽しむ莉愛を見つめた。

 あんなに楽しそうな莉愛は久しぶりだな。

 楽しそうにボールを追いかける莉愛の姿に、頬が緩む。

 良かったな莉愛。自分が試合に出られなくても、あいつらのおかげで、バレーの楽しさを思い出せたんだな。







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