排球の女王様~私に全てを捧げなさい!

 *



 次の日、第二試合を前に体育館のロビーがザワついていた。

「あっ……来たぞ」

「え……?どれどれ?」

「あれが女王様?」


 ん?

 女王様?

 ……何なんだろう?

 皆がこちらを見ている様な気がする。

 何だか嫌な予感が……。

 そこに、充が慌てた様子で走って来た。

「姫川大変だ。今、友達から連絡が来たんだけど、昨日の試合のことが噂になってるって」

「それって、犬崎が勝ったから?」

「違う!体育館に女王様現るって!」

 はぁ?

「スタメンを跪かせる女王様って」

 それを聞いた瑞樹がにゃははと笑い出した。

「だよね。昨日のあれは、女王様だったよね~。でも、そのおかげで俺達も目が覚めたって感じだったし」

「そうそう。それに高崎英明高等学園のメンバーに言った最後の言葉、しびれたよな」

「痺れた、痺れた!『私達は上に行く。悔しかったら下克上お待ちしています』っていうやつ、やばかったよなー」

「高崎英明高等学園のメンバー全員、姫川に惚れたんじゃ無い?みんな見惚れてたもんな」

 一年コンビが莉愛の声まねをしながら、嬉しそうに会話しているを、莉愛は血の気の引いた顔で聞いていた。


 スタメンを跪かせる女王様……。

 だから……だからみんな、私を見ているわけ?

 ウソでしょう……。

 最早、一年コンビの褒め言葉など、莉愛の耳には入ってこない。『跪かせる女王様』その言葉だけが莉愛の脳内を埋め尽くしていた。

「みんな……私……今日ベンチ入らない。ごめん、頑張って」

 それを聞いた拓真が慌て出す。珍しく祐樹も眼鏡を指で上げながら慌て出した。

「何を言っているんだ。ダメだよ。姫川がいないと俺達は力が出し切れないよ」

「そうだ。それに、姫川も、犬崎の7人目のメンバーなんだ」


 私も犬崎の……7人目のメンバー?

 キョトンとしている莉愛に流星と洋介が肩を組み親指を立てた。それを見た犬崎のみんなが莉愛に向かって親指を立てる。

 うわーっ……すっごく嬉しい。

 莉愛の胸がじんわりと熱くなっていく。

 私は何を逃げているんだ。

 こんな所で逃げてなんていられない。

 上に行くと決めたんだ。

 振り返ることも、立ち止まることもしない。
 
 進むんだ。

 親指と立てるみんなに向かって、莉愛はフッと笑った。

「みんなありがとう。女王様……いいじゃない。なってやるわよ。女王様に!」




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