青春の備忘録
 私がそう言いかけたとき、その場に歓声のような声が響いた。
 「え?」
 私はそれだけ言って黙っていたが、良太が口を開いた。
 「いやあ〜別に特にないんすけど」
 「あ……そうなんですね、あの、帰ります」
 私はいつものように失礼します、と言って教室に戻ろうとしたが、
 「待って」
 という声を聞いて、くるりと向き直す。
 「夏大(なつたい)、見てくれました?」
 「もちろん。少し現地でも見させてもらったし……いい試合だったよ」
 私はにっこりと笑ってそう答えた。
 「あざっす!」
 良太はペコリとおじぎをしていたが、周りの人たちはまるでお祭りかというほど盛り上がっていた。
 「あの、次の授業もあるので戻りますね」
 私は何が起こったのかよく分からなかったが、良太の元気の良さに口の端が少しだけ上がった。
 後から聞いた話だが、良太は3年生が引退してから──つまり、自分の代の主将(キャプテン)になったらしい。
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