王女の選択

「でもこんなドレス、着たことないもの」

前の襟ぐりも深いだけでなく、後ろも背中の半分ほどが見えるようになっている。世の女性たちはこんなドレスで舞踏会に行っているのかと考えただけで眩暈がした。
自信無げに俯くカーラの両手をしっかり握るとステラはカーラに言い切った。

「いいですか。これからはより多くの場面で着ることになるだろうということをお忘れなく。そのうちルドルフ殿が婿探しをされるでしょうから、一緒に舞踏会に行く機会も多くなるはずです」

婿探し?

ステラの言葉にカーラは愕然とした。
ステラはカーラの気持ちを知らない。
たった三日で敵の君主に恋してしまったなどと言ったら、卒倒するだろう。
でも今のカーラの心は完全にジェラルドのもので、他の人との結婚など考えられない。
カーラは落胆の溜息を吐いたが、ドレスのことで落ち込んでいると勘違いしたステラはカーラの頬を何度かつねると、気合を入れさせるようにカーラに言った。

「カーラ様。今日はルドルフ殿の回復祝いと交渉の大事な日です。これが終わればまたもとの平和な暮らしに戻れるはずです。どうか、カーラ様はこの城の女主人としての責任をきちんと果たせるよう全力を尽くしてくださいませ」

祈るような声で言うステラを見て、カーラはハッとした。
そうだ、今日は最後の日なのだ。
カーラは深く息を吐くと、ステラを見てほほ笑んだ。

「もう大丈夫よ」

鏡の中の自分をもう一度見つめた後、カーラは部屋を後にした。

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