王女の選択
何にもわかっていない。
今までよくもカーラの魅力をこの城内だけに閉じ込めておくことができたものだ。ひいて言えば城内にいる騎士たちにさえ手出しを許さなかったルドルフに感謝したいほどだった。ジェラルドはカーラの手を自分の腕に置くと、絶対離れないようにと注意し、大広間へと誘導していった。
そこではすでに音楽が静かに演奏されていて、ろうそくの灯がそこかしこで揺らめいている。テーブルにはストラウス側から調達した食料で見事に調理された料理が所狭しと並べられていて、中央にはピンクと黄色を基調としたアレンジフラワーが飾られている。侍女の一人と話していたリュカはジェラルド達を見た瞬間、ぽかーんと口を開けて固まってしまった。窓辺に寄りかかりしばし二人を凝視していたヴィクトーは背筋を伸ばした後、ゆっくりとジェラルドの方に近づいてきた。
「ジェラルド殿。いくらカーラ殿が美しいからといって、ルドルフ殿のお相手を取ってしまっては、せっかくの宴が台無しになってしまいます」
「ふんっ。ルドルフ殿にはカーラの相手はまだ無理であろう。手すりのほうがよっぽど役に立つ」
ジェラルドはヴィクトーの小言を無視するように顔をそむけた。
夢心地で大広間へと降りてきたが、確かに完全復帰していない父を支えるのは自分であるべきだと気づいたカーラは、ヴィクトーの言葉にハッとさせられジェラルドを見上げた。
カーラの不安そうな目を見たジェラルドは大きくため息をつくと、ルドルフ殿の所に行くようにとカーラを促した。小走りで階段を駆け上るカーラを見届けながら、ジェラルドはヴィクトーを睨んだ。