王女の選択
カーラは父のこのわざとらしい演技に嫌気がさして、張り付けた笑顔もバカバカしくなってきた。
貿易交渉をしたい?
よくもそんなことを軽々しく言えたものだわ。
この場を設けさせてもらった?
毒以外何を用意したというの。
カーラは怒りを抑えるのに必死で、素晴らしい料理を味わうことができず、料理長に申し訳なく感じていた。
「それにしても今日のカーラ殿は何にもまして美しい。亡き王妃もカーラ殿の成長を誇らしく思っておられることでしょう」
ジェラルドはカーラの目を見ながら賛辞を送った。カーラはジェラルドの言葉に頬を真っ赤にし、うろたえながら礼を述べた。ルドルフはしばらくカーラを見ていたが、突然目をそらすと、先ほどまでの声色とは違った、昔に思いを馳せているような感じで話し出した。
「我妻イリアナは病弱でしたが素晴らしかった。彼女を失ってから、私は死んだも同然だった」
ルドルフの言葉にカーラはハッと息を呑み、ジェラルドは目を細めるとルドルフを見据えた。
「息子もいないこの王国で、私ができることは娘を息子のように育てること以外何もなかった」
「社交界デビューをさせなかったのはそれが原因ですか」
「ジェラルド殿」
ヴィクトーはジェラルドを止めようとしたが、右手をあげてヴィクトーを黙らせた。
「社交界?城を守り、国を統治していく中でそれは必要なことだろうか」
「ルドルフ殿の子孫にこの国を残すためにも、この国を存続させるためにも、必要なことではありませんか」