王女の選択

それを見た瞬間、考える前に体が動いていた。
カーラはジェラルドの前に飛びだすとジェラルドに抱き着いた。
と同時に後ろから何かがぶつかってきたかと思うと、衝撃的な痛みが右肩を襲った。
ジェラルドはカーラが飛び出してきたことに吃驚し、肩に刺さった短剣を目にしたとたんカーラの名を叫んだ。呆然と立ち竦むルドルフはなぜカーラがジェラルドの前にいるのかわからないとでもいうように何度も何度も首を振り続け、ジェラルドの叫びに驚いたリュカとロイドは部屋の状況を目にしたとたん、驚きのあまり動きを止めた。
カーラの息遣いの変化に気づいたヴィクトーは素早く水と小瓶に入れた解毒剤を手に取った。

「ジェラルド殿。解毒剤を。毒が塗られているのかもしれません」

ハッとヴィクトーを見返し、すぐさま解毒剤を口に入れると、水と共に口移しでカーラに与えたが、口からあふれ出るだけだった。

「カーラ。頼む!飲むんだ!」

ジェラルドはもう一度水を口に含めると、強引に開かせた口の中に流し入れ、自分の唇で完全に封鎖した。二度目はせき込みながらもなんとか飲み込むことができた。額の汗をぬぐいながら、ジェラルドは優しい声でもう一度と言って注ぎ込み、完全になくなるまで繰り返し解毒剤を飲ませた。

「ロイド殿!ステラに緊急で医者を呼ぶよう指示してください。ジェラルド殿、とにかく移動させて止血しないと」

ヴィクトーは指示を出しながら、自身の上着を脱ぐとカーラの背中を囲うように縛った。
さっきまで美しく艶やかなピンク色だった唇が今は紫色に変色し、小刻みに震えている。ジェラルドは何度もカーラの顔を撫でていたが、ヴィクトーの言葉を聞いてカーラをそっと抱き上げた。

「私の部屋に連れていく」

抱きかかえたカーラに目を向けた後、ゆっくりと視線をルドルフに移した。

「牢に入れておけ。今生きていることを一生後悔させてやる」

そういうと、振り向くことなくその場を去った。
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