王女の選択
「ヴィクトー!!医者を待っていられない」
ジェラルドは歯を食いしばりながら、消えそうなカーラの息遣いを聞いていた。
「我々だけで行うのは危険が生じます」
「しかし、もう時間がない!」
「短剣を抜いた瞬間大量の出血が伴います。我々だけではリスクが大きすぎます」
「だがカーラは今にも息が絶えそうなんだぞ!!」
「ジェラルド殿、今だからこそ冷静でいなければなりません。カーラ殿を助けるためにも」
ジェラルドは頭を抱え込んで、カーラの前に跪いた。
「なぜだ。なぜ私の前に飛び込んできたんだ!!」
「・・・・それがなければ、ジェラルド殿の命はなかったことでしょう」
「カーラを犠牲にしてまで自分の命がほしいとは思わない!こんなものくれてやるっ!」
何もできない自分に腹が立ち、ヴィクトーに歯をむき出して怒鳴った。
「でもカーラ殿は自分の命を犠牲にしてまでも、ジェラルド殿の命を救いたかったはず」
ヴィクトーはジェラルドがワインを口にした時のルドルフの表情を見逃してはいなかった。ワインあるいはグラスに毒が仕掛けられておく予定だったに違いない。今か今かと待っていながら、何事も起こらないことに憤激していた。こんなこともあろうかと、ヴィクトーはジェラルドとリュカに解毒剤を渡し、事前に飲んでおくよう伝え、予備の解毒剤をポケットに忍ばせていた。
まさかカーラに使うことになろうとは思ってもいなかったが。
カーラが注意深くルドルフを見ていなければ、確実にジェラルドにけがを負わせていたであろう。あの瞬間、真っ先に動いたのはカーラだったのだから。
今まだ可能性があるのはカーラがジェラルドに飛びついた時、その短剣がカーラの右肩に刺さったことだった。左側であれば、今頃とっくに息絶えていただろう。血を吐き出していない所を見ると肺に到達していないのはわかっていたが、医者ではないため剣を抜き取ることを決断できずにいる。