王女の選択
「イリアナは気分がいい時は外に出ることもできたが、カーラの世話などは到底できなかった。それでもできる限りの愛情を彼女なりにカーラに注いでいた。ある年の冬・・・9年ほど前だ。最初は風邪と似た症状だったがどんどん悪化していき、いつまでたっても熱が下がらない。私は妻の状況、名医が必要なこと、薬が必要なことを手紙にしたため周辺国に通達した。ちょうどそのころ周辺国でも病気が蔓延しているという理由で、誰一人手助けしてくれる者はいなかった」
ルドルフは目を閉じ、瞼を震わせながら言葉を続けた。
「ある日、侍医がストラウスとアングラードを囲む山に希少ではあるがどんな熱でも下げ、病を治すという植物があると聞きつけてきた。私はすぐに其方の父親であるアングラード国王に、妻を助けるためその山へ入る許可が欲しいと再度手紙を送った。短期間で見つけるためには兵を導入しなければならず、その許可も必要だと。しかし数日後に受け取った手紙にはイリアナは助からないだろうという言葉と、あそこは多くの地下資源が眠る場所で採掘所として息子が指揮を執ることになるので許可できないことが記されていた。私は数日間でもいいから採掘を中止させ、我が兵を立ち入らせてほしい、植物の採取をさせてほしいと懇願した。しかしその度に拒否された。その1ヵ月後にイリアナはこの世を去った」
ルドルフはうつろな目でジェラルドを見つめた。
「私はどうすればよかったのだ?愛する妻が目の前で死んでいくのを黙って見ていればよかったのか?・・・セルドウィックが小国で力がないから、助けを求めても見向きもされなかったのだ。なら力をつければいい。そのためにカーラには息子同様、それ以上に厳しく接し、討伐に連れていったり騎士達の練習にも参加させた。しかし成長と共にイリアナの生き写しのようになっていくカーラを見て、私はできるだけ離れて生活するようになった。そうでもしなければ、この計画が続けられるとは思えなかったからだ。心優しいイリアナだったら当然反対するであろう。しかし私はどうしても復讐したかった。復讐して私が感じているこの苦しみを他国の王達にも味わわせてやりたかった」