王女の選択

もし自分がルドルフと同じ立場だとしたら、どういった行動をとっていたか。
ジェラルドははっきりと違う選択をすると言える自信がなかった。
ルドルフがどれほど深く妻イリアナを愛していたか。
カーラに会う前のジェラルドなら、想像すらできなかっただろう。
でも今、ジェラルドはルドルフの気持ちが痛いほどわかっていた。
小さな綻びが憎悪に変わっていくまで、そう長い時間はいらなかったはずだ。
例え鉱山権を獲得したとしても、イリアナは帰ってこない。
それを頭ではわかっていても、何かせずにはいられなかったに違いない。

考えれば考えるほどジェラルドはやりきれない気持ちになった。
ジェラルドはカーラの様子を見てくるとロイドに告げ、2階へと上がっていった。
部屋に入ると、ステラがベッド脇で裁縫をしていたが、カーラは何の変化もないまま横たわっていた。

「先ほど医者が参り、傷の確認をされていました。熱も下がり経過は良好だとのことです。目を覚まさないのは体力を回復するための準備をしているからだそうで、数日はかかるだろうとのことです。ただもしこれが数週間となると話は違ってくると・・・」

ステラはそれ以上言葉にはしなかった。まるでそれを口にしたとたん、最悪な状況に陥ってしまうとでも言うように、薄い唇をぎゅっと噛みしめ、裁縫に専念した。

「リュカがここを発つ際、手紙を持たせた。ストラウスから医者を呼ぼうと思っている。城に滞在させれば、何かあった時にわざわざ街まで呼びに行かなくても良いだろう」

ジェラルドにできることはそれぐらいしかなかった。あとはできるだけカーラと共に過ごし、カーラをこちらの世界に戻って来ることをひたすら祈り続けることだった。ステラの向かい側に椅子を引き寄せると、頭をベッドにのせ、カーラを見つめながら、束の間の休息を取った。

「ジェラルド殿」

ヴィクトーの声にジェラルドは頭をあげ辺りを見渡すと、ステラは部屋におらず、彼女が部屋を出る音に気付かないほどぐっすり寝ていたことに気づいた。

「橋復旧作業は終了しました。昨日はストラウスからの野菜の種も届いたので、農家達に分配し種まきを開始するよう、指示してあります」

報告しながらちらっとカーラを見たが、すぐに視線をジェラルドに戻すと報告を続けた。

「町は少しずつ現状に戻ってきていると思われます。しかし、戦いが始まる前から生活が苦しかったようで、完全復興となると、時間がかかると思われます。我が兵を一時帰国させ、別の兵を送るよう指示しました。よろしかったでしょうか」

「ああ。必要なことは全てしてくれ」

「わかりました。・・・ジェラルド殿」

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