王女の選択

ジェラルドはヴィクトーの言葉を考えた。
あんなふうにうやむやにしていたが、ヴィクトーの本当の心はどこに向いているか。
ジェラルドはカーラの頬に手を伸ばす。
例えヴィクトーの願いであっても、カーラを手放すことだけはできない。
そして、カーラが感じる全ての不安を取り除き、喜びを与えるのは自分でありたい。

他の誰でもなく―――。

ジェラルドは侍女を呼ぶとカーラを頼み、自分のすべきことに向かって動き出した。


―――

暗闇の中でカーラはすっぽりと繭の中にいるような安心感に包まれていた。時々柔らかいそよ風のような声がどこからか聞こえてきて、何といっているのかよく聞こえなかったが直感的にその声が好きだと感じていた。
どこかに意識があり、目を開かないといけないと思っていながらも、今まで一度も感じたことがないような心地よさに体が目を覚ますことを拒絶していた。
このままずっとここに身を横たえていたい。
そう思いながら暗闇の中で横たわっていた。
しばらくしてまたあの声が聞こえた。そして、その時初めてそれがジェラルドの声だと気づいた。

ジェラルド・・・

彼の名を呼ぼうとしたが、声が出ない。
その瞬間、絶対的な安心感だと思っていた暗闇が突然押し潰されそうな恐怖へと変わり、ジェラルドを探そうとカーラは暗闇の中でもう一度彼の名を呼んだ。
ジェラルドが私の名前を呼んでいるのに。
何度もその声にこたえようとジェラルドの名を叫ぶ。
呼吸が早くなっていくのを感じ、もう駄目だと思った瞬間、瞼が開いたと同時にまぶしい光が視界に差し込んできた。思わず目を細めると、大きな手がカーラの頬を覆った。
少し痩せてしまって、無精髭と眼の下の隈が彼の苦悩を色濃く映し出している。

「待たせすぎだ・・・」

切なげに声を震わすジェラルドに胸が苦しくなる。

「ぁ・・・・・」


< 150 / 196 >

この作品をシェア

pagetop