王女の選択
手を伸ばしたいのに体を動かすことができず、口の中が乾ききっていて、話すことすらできない。

「み・・・みず・・・を・・・」

声とならない声で囁くと、すかさずカップを手に取ったジェラルドがカーラの体をそっと起こして水を流し込んだ。
繰り返し名前を呼び、カーラの頬を何度も撫でながら、やっと目覚めたことを再確認しているジェラルドにカーラはゆっくりと頷き返した。

「医者を呼んでくる」

ジェラルドはそう告げると、小走りに部屋を出て行った。
カーラはジェラルドがストラウスから呼んで来た侍医の診察を受けた後、すぐにまた眠りについた。

ベッドから起き上がることができるようになるまで一週間、一人で食事ができるようになるまでさらにもう一週間がかかった。カーラは思うように動かない体とジェラルドの極端な過保護さに日に日にイライラを募らせていった。
目覚めてから3週間目のある日、カーラは朝の恒例行事のようにジェラルドと言い争っていた。

「城内なら危険ではないかと・・・」

「だめだ」

「動かないと良くなるものもよくならないのでは!」

「室内を歩き回ればよいだろう」

「ここ数日、何度この部屋を歩き回ったかジェラルド殿はご存知ですか!」

「ジェラルドだ」

カーラはきっと睨み返すと、ジェラルドに噛みついた。

「私は散歩に出たいだけで、戦いに行くとは申していませんっ」

「一人では行かせられない」

「なら誰かと一緒に・・・」

「だめだ」

ジェラルドは最後通告とでも言うように、きっぱり言い切った。

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