王女の選択
「失礼します」
ノックの音と同時に、ヴィクトーがカーラの部屋に入ってきた。
「ジェラルド殿、ジルベールが協定に関して至急話があると」
「わかった・・・」
そう言ったものの、ジェラルドは部屋に二人きりにさせたくなく鋭い視線を送ったが、ヴィクトーは全く気付かないとでも言うように、傍にあった椅子に座ると、私はカーラ殿のお相手を少ししてから行きますとほほ笑んだ。
ジェラルドは大きくため息をつくと、カーラにキスをしてから裁縫でもすればいいと提案し、部屋を出て行った。ヴィクトーと二人きりになったカーラはやはり居心地が悪い気持ちになって、スカートを何度も整え直した。
「回復されて本当によかった」
その声は今まで聞いた中で一番暖かく、心がこもっていた。
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「何か企んでいるというのはわかっていましたが、まさか自分の体を盾にするとは」
「・・・咄嗟のことでしたので、何も考えておりませんでした」
「自分を犠牲にしてまでジェラルド殿をお守りになった。それが全てです」
カーラは顔を上げて、ヴィクトーを見つめた。
眼の先から頬の中ほどまで伸びた、細い傷。
今までヴィクトーの鋭い視線に怯えていたが、その眼差しは今慈愛に満ちていた。