王女の選択
お達し?
「カーラ様にとって忘れられない日にしたいために、口外無用だと言われておりましたから」
瞬きをしながら目に浮かんだ涙を払いのけ、口元に手を当てすすり泣きを押さえながら、ステラは感無量と言った感じで、何度も何度もカーラを見ながら頷いた。
「ジェラルド様をこれ以上お待たせしてはなりません。本当に長い間、カーラ様のことをひたすらお待ちしていたのですから」
カーラは小さく頷くとステラを抱きしめ、急ぎ足で礼拝堂に向かった。
階段を駆け下りると父ルドルフが先程とは違う正装を着てカーラを待ち構えていた。
「お父様・・・」
ルドルフの目が柔らかく揺れる。
「綺麗だ・・・イリアナそっくりだ」
「このティアラ・・・お借りしています」
「お前のものだ。何も遠慮する必要はない」
そろそろ待ち焦がれているジェラルド殿の所に連れていかねば、今度こそ首を取られてしまう。ルドルフは楽しそうに笑いながら、腕を差し出すとカーラはそっと手を置いた。
ルドルフの後ろに控えていたジルベールは二人にお祝いの言葉を述べた後、礼拝堂の前で振り返る準備はよろしいですかと二人に確認し、厳かに礼拝堂のドアを開けた。
淡い日差しが窓から注がれていた礼拝堂の中は花びらで埋め尽くされていて、信じられないほど美しく飾られていた。
正面にはストラウスブルーと金の刺繍が入った正装を着たジェラルドが何とも言えない表情でカーラを見つめている。
見知らぬ顔の人間も数人いる。ストラウスから来たのだろう。その中の一人、前髪の一部が少しグレーがかった男性に目が行った。ジェラルドと同じヘーゼル色の目を持ち、目尻に深い皺を浮かべ、カーラをじっと見つめている。
ルドルフは小声で行くぞと声をかけると、カーラと一緒にバージンロードを進み、カーラの手をジェラルドの手に預けた。
お父様・・・
カーラがルドルフを見上げると、頬にそっと手を置き幸せになるんだぞと囁いた。