王女の選択
確かに目の前にある湯は魅力的だ。
リュカが警護してくれるのならありがたい。
小さい頃から共に育ったリュカはジェラルドに対して兄弟のように接し、数少ない友の一人でもあった。

ジェラルドは剣をベッドに立て掛けると汚れた衣服を脱ぎ、身体を湯に沈めた。
その瞬間、左腕に小さな痛みが走り目をやると、先ほど彼女に切り付けられた痕が見えた。

「・・・彼女、なかなかいい腕してたよね」

リュカはにやりと笑って、ジェラルドの傷を指さした。

確かに、彼女があそこまで切り込んでくるとは予想していなかった。

惚れ惚れとするような剣捌き。

あの技術まで到達するために、並みならぬ努力を重ねて来たに違いない。
滑らかな動きを繰り出す彼女に戦いながらも見入ってしまっていた。そして油断した結果がこれだ。
ジェラルドが剣を交えている間、気を抜いたことなど過去に一度もなかった。それは一瞬の判断ミスが命取りになるからだ。

それでも・・・あの時自分の命を危険にさらしてでも彼女を見ていたいと思ってしまったのだ。

そして気づいたら彼女に口づけていた。


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