王女の選択
ロイドは呼吸を整え直しカーラを見つめた。
カーラを幼い頃から知っているロイドにとって、民を心から愛しているカーラを娘のように愛し、尊敬していた。
ただ、この戦いの前線にはあのストラウス公国、ジェラルド大公がいる。
噂によると眉目秀麗、剣の腕が立つことで名を轟かせていたが、どちらかというと無慈悲で極悪なジェラルド大公の噂のほうが圧倒的に多かった。
例えばストラウス公国に訪問した際、無礼な態度を取ると二度と戻って帰ることができないとか、戦では敵の血を飲んで力を得ていただとか、ジェラルド大公の女癖の悪さとか、いやいや女性ではなく実は男性を囲っているとか挙げていけばキリがない。
ほとんどが単なる噂だとわかってはいるものの、できればカーラをそんな人物に会わせたくないと思うロイドだった。だからと言ってカーラが言う通り、ロイド一人乗り込んだところで謁見さえ許可されるかもわからなかった。
二人は馬を飛ばして国境付近の森まで近づくと、そこは一層激しい戦いが行われていて、その光景は悲惨だった。
カーラは目を細め、ゆっくりと辺りに目をやる。
昨日の夜、一人でいる時に枯れるほど泣いたはずだったが、まだ涙は残っていたらしい。
静かで平和に暮らしたい。
ただそれだけなのに・・・。
溢れ出る涙を無造作に手の甲で拭い、愛馬に合図を送って敵陣の方角へと向かっていった。