王女の選択
その森はちょうどセルドウィック王国とストラウス公国を真ん中に位置していて、森の真ん中を切り開いて、両国が行き来していた。
ふーっと息を吐きだし心を落ち着けると、森を突き抜ける街道に向かって声を張り上げた。
「私はセルドウィック王国、王女カーラ・セルドウィック。この意味のない戦いを終わりにしたい。ジェラルド大公。見ての通り、私は供を一人しか連れてきていない。安心して出てきていただきたい」
その透き通った響き渡る声に、戦いを繰り広げていた両国の兵士たちが動きを止めた。ストラウス側は女性が、それも王女が剣を片手に高々と宣誓している姿に呆然としていた。
しばらくすると向こうから黒い軍馬にまたがった男が両脇に騎士らしき男を二人携えてやってきた。
ストラウス側はその姿を見るなり、みな膝をつき頭を下げていった。
彼が・・・・彼が噂のジェラルド大公・・・。
初めて目にするその姿はカーラの父や騎士団とはまったく違った。
猛々しく、返り血を浴びてはいたが、彼がまとうオーラにカーラ自身跪きそうになった。
肩に触れるか触れないかぐらいの黒髪は汗で湿り気を帯び、ヘーゼル色の目は一点も揺らぐことなくカーラを見ている。
10メートルほどの所で馬を止めると、何も言わずただ静かにこちらに視線を投げかけてきた。カーラはその圧倒的な存在感に怖気づきそうになりながらも、自分の馬を数歩前へ進め背筋を伸ばしジェラルドに視線を合わせた。
「我が父である国王の愚考により、ストラウス公国に多大な損害を与えてしまったことをお詫びさせていただきたい。戦いを今すぐやめさせたくこの場に訪れた。両国の兵が無益な血を流す必要はまったくない。ジェラルド大公、どうかこの場で協定を結ばせていただきたい」
カーラの心臓は胸を激しく打ちつけていたが、そんな様子をおくびにも出さないよう顎を引き、まっすぐと前方を見据えた。
ジェラルド大公は剣先を下に向けたまま、身動き一つしない。
何の反応も示さないジェラルド大公を見つめながら、カーラはふと自分の言葉が届いていないのではないだろうかと考え始めた。
どうすればいい?