王女の選択
彼は、この瞬間にも軍馬を走らせ切りかかってくるかもしれない。
もしくは、どうやって有利に交渉を進めるか考えているのかもしれない。
ただ、10メートル先の彼の瞳からはそれを読み取ることができなかった。
遠くではまだ兵士たちの叫びと剣音がかすかに聞こえてくる。
「質問がある」
フッと口角をかすかに上げた後、ジェラルドは低い声で答えた。
ジェラルドの右側にいる騎士が、ちらっと横目でジェラルドを見た以外には誰も微動だにしない。
「其方はこの戦いをどう終結させるつもりだ?」
それはカーラ自身、この場に来る前に考えたことだった。
こちらから戦いをはじめ、ストラウト公国に多大な損害を与えたのだ。
何かしらの交渉材料を持ってこない限り、進められない。
「港への通過料を7%まで引き下げるのは?」
「7%?話にならない」
「っ!現在の10%から考えたら、かなり有利なはず!」
「有利?奇襲してきて、わが国をかき回し、何人もの兵士の命と多大な損害を出しておいたのに?・・・笑わせるな。それに・・・」
ジェラルドはカーラと隣のロイドに目をやるとフッと口元を緩める。
「それがルドルフ殿の案とは到底考えられない。其方の言葉がそれほど効力があるとも思えないしな」
カーラはぐっと、乾いた唇をかみしめた。
確かに自分にできることは限られている。
でも他に何ができるというの。
今の自分にできることはこれぐらいしか思いつかなかった。
「では・・・ジェラルド大公は何か案でも?」
「そうだな・・・ルドルフ殿の首をいただきたい」