王女の選択

「立ち聞きをしてしまって申し訳ありません。ただ我々のストラウス公国に関係することは全て知っておかねばなりませんので」

そう言うと大広間のすぐ脇にある部屋のドアに手を伸ばし、中に入るよう促した。
その部屋は壁にセルドウィックの風景画が所狭しと飾られていて、セルドウィックの間と名付けられていたが、この部屋を利用することも最近ではほとんどなく、少し埃っぽく感じられた。

「ジルベール殿。貴殿の噂、時々耳にしておりました。ジルベールあってのセルドウィックとまで言わしめたとか」

「そ、そんな恐れ多い」

「いいえ。隣国まで貴殿の名が聞こえてくるのですから大したものです。だからこそジルベール殿のいるセルドウィックを敵に回したくありません。しかし、事と次第によっては我々も方法を変えていかなければならないのは承知していただきたい。ジェラルド大公は和解の道を模索中ですが、騎士団長である私はあらゆる障害物を排除するつもりでおります。どんな手を使ってでも」

突然向けられた鋭い眼差しにカーラは金縛りにあったかのように身動き一つできなくなった。淡々とまるで最後通牒であるかのような冷え切った声に背筋がぞくっとする。昨日まではそれほど気に留めていなかったが、ストラウス公国の騎士団長としての脅威を気付かされた。

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