ただそれだけ
第二章 散る

勉強は好きになれない①

翌日校庭で彼女に会った。

彼女は昨日のお礼を言った。

僕は昼食に誘うと、食堂で待ち合わせすることになった。

昼休みになり食堂の近くで煙草を吸っていると彼女が現れた。

彼女も煙草を吸い、吸い終えると食堂へ入った。

食堂には今年入学した一年生で溢れていた。

空いている席に座り、彼女はサラダとパスタ、僕は魚定食を券売機で購入した。

「帰りはいつも遅いの?」

彼女はそう言うと、コーヒーを飲んだ。

「2時に終わって家に着くまで30分かな」

彼女はサラダにドレッシングをつけずそのまま食べた。

「朝は起きられるの?」

「帰ってすぐ寝ればなんとかなる。講義の内容も懸命に聞くほど興味はない。昔から勉強は好きになれないんだ」

彼女はしばらく僕の顔を見つめた。

「テスト前にわからないことがあったら、君にも助けを求めるかもしれない」

彼女はため息をつき首を振った。

午後の講義には友人も参加していた。

「今日一緒に飯を食ってた女の子って誰だよ?」

どうやら友人もあの夜のことはほとんど覚えていないようだった。

たまたま講義って知り合っただけだと言った。

午後の講義を終え部屋に戻り、アルバイトまでゆっくり過ごした。

アルバイト先に行くと今日は店長が休みらしく、他のバーテンダーがいた。

彼は僕より30歳以上年上で普段はほとんど喋らない。

僕はいつもの作業に取りかかった。

今日は女性の先輩も休みだ。

代わりに僕の一つ上の女性がいた。

彼女は美術大学に通っていた。

いつもより会話は少なかったが、各々に自分のやるべき業務を行なっていた。

途中で彼女がカウンターの方に行き話をしていた。

以前キャンプ場の川沿いで見かけた女性だった。

そういえば彼女も絵を描いていた。

彼女は僕の顔を見たがすぐには気づかなかった。

注文を受け彼女の前に出すと、以前キャンプ場で会わなかったかと聞かれ僕は頷いた。

暇な時は彼女はその子のところへ行き、話をしていた。

卒業論文や就職の話をしていた。

帰り際、彼女が僕のところへ来て「姉がここの料理は美味しいって言ってたわ。帰ったらあなたに会ったことを伝える」

「僕の料理なんかでよければいつでもどうぞ」

僕がそう言うと彼女は微笑み店を出た。
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