終わり良ければ、せふれ良し。
杏と晋太郎が忘れ物がないか部屋を見渡し、最終確認をしていると、きれいな女性が杏と晋太郎がいる部屋の扉の前で杏を呼んだ。
隣にいた杏の表情が少し険しくなるのを晋太郎は見逃さなかった。
「杏ちゃん」
「・・・何ですか。恵吏子(えりこ)さん」
「ごめんね、和真(かずま)さんと大事なこの家奪っちゃって」
「・・・いえ・・・お父さんは?」
「1階にいるよ」
「・・・・っ」
杏はその女性に何を言いたげであったが、口ごもる。
咄嗟に晋太郎は杏の肩を叩き、彼女に呼びかけた。
「杏、お父さんに挨拶してきなよ。ここは俺が見とくよ」
「あ・・・うん。じゃあ、下に行ってる」
晋太郎は第一印象で恵吏子を「意地悪そうな人だな」と思った。
「あなたが杏ちゃんとルームシェアしてくれるって人?」
「・・・はい」
「わたしは杏ちゃんのお父さんの再婚相手です」
「・・・はぁ」
「杏ちゃん、すごいパパっ子なんだけど、一度家を出たなら2度と戻ってこないでねって友達のあなたからも言ってくれない?」
「・・・」
晋太郎は赤の他人である恵吏子の発言に違和感と敵意が芽生える。
「俺は杏の味方です。杏の家だからいつ杏がここに帰るかは彼女が決めることです。帰りたいときに帰ってきていいし、あなたに権利はありません。旦那さんの子どもを大切に思えないひとがいるこの家には杏を返したくはないので帰らせませんけど」
晋太郎は「失礼します」と伝え、1階に降りる。
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