終わり良ければ、せふれ良し。
ガラッ。

「・・・・あれ」
「あ・・・すみません」
玄関前で煙草を吸っていた晋太郎がいる近くの部屋の窓から無精髭の男性が顔を出した。
「・・・杏さんのお父さんですか?」
「・・はい」
「あ、杏さんとルームシェアする晋太郎と申します・・・。杏さんなら車に乗ってるので、ここにはいませんよ」
「・・・そこの灰皿取ってくれます?」
玄関前の地面にある灰皿を見つけた晋太郎は窓から覗く杏の父親に灰皿を手渡す。
「いつもは外で吸われてるんですか?」
「うん。昔煙草の火を消し忘れてうたた寝してボヤ起こしたことあるから」
「・・・」
「杏が厳しいから、外で吸ってるんよ」
「じゃあ、杏さんいなくなっちゃうんで、家の中で吸えるようになりますね」
「・・・吸わないよ」
「え?」
「煙草はあの子がいなくなっても外で吸うし、ガスの元栓ちゃんと切って寝るって言っておいて」
「ん・・・?ガス?」
「うん、湯を沸かしてるのを忘れてイヤホンしながら寝ちゃった時があって、空焚きのままだったの。警報機が鳴り響いてるのに気づかなかったんだよね・・・帰ってきた杏に起こされて、めちゃめちゃ怒られて、イヤホン捨てられたの。ボヤのときは起きてきた杏に水を掛けられて免れたけど、怒り狂ってカートンで買ったたばこも全部水浸しにされた」
「・・・」
なんじゃこの親。
「爆発して死ぬかもしれなかったし、火事で死ぬかもしれなかったんだけど、いつも杏が近くで助けてくれたんだよね」
「・・・」
「父子家庭でひとりっ子だから、きょうだいもいない。俺の母親がずっと杏を見ててくれてたんだけど、あいつが高校生の時に亡くなった。あの子はいつも自分より、俺や周りの人間の目を気にして息をしているような子やから・・・・まあ、なんだ。杏をよろしくね、少年」
「・・・あの」
「ん」
「杏が鬱陶しいから追い出したんじゃないんですか?」
「ちがうよ。杏が自分を第一に考えて行動して、幸せになってほしいから追い出したんだよ。ここにいたら、杏は俺のことばっかりになるからね。また遊びにおいで、少年。はい、これ。杏が初給料で買ってくれた俺のスマホの電話番号!じゃあな」
ぴらっと殴り書きで書かれている携帯番号。

不器用なひとなんだ。
きつい言葉で突き放して、追い出したくせに。
本当は杏がだいすきな人なんだ。
「手見上げ持ってきます。またお話聞かしてください」
何かが終わったようで始まる音がした。
「晋太郎、遅いよ」
「ごめんごめん、行こうか」
「お父さんと何か話した?」
「うん!杏からの約束は絶対守るからって言ってたよ」
「・・・約束?」
少し間があったが、理解できたのか、杏は笑った。
かわいい。
また少し、好きになった。
「お腹すいたね。みんな待ってる」
杏の実家から晋太郎が住むマンションまでは車で30分くらいのところにある。
< 12 / 13 >

この作品をシェア

pagetop