エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
斎藤課長は性癖を爆発させる

01.斎藤課長は悶々とする

 「出来る男」として、会社内外で将来を有望視されている斎藤課長こと斎藤隼人。

 彼は幼いころから文武両道、成長とともに伸びていった身長と整った顔立ちの隼人は黙っていても目立つ存在で、異性同性問わずモテていた。
 そんな彼が周囲に隠していたのは、女性の足、膝から脹脛にかけてのラインを見ると興奮を覚え、特にムダ毛処理の剃り残しに興奮が高まるというものちょっと変わった性癖だった。

 幼いころから多数の女子からのアプローチを受け、中には強引に体の関係を結ぼうとした肉食女子もいた。
 そのせいか、付き合う女性の顔はあまり重視しておらず顔の枠内に目と口と鼻がくっついていればよく、足が自分好みの相手であればいい、とさえ思っていた。
 自分の関心を引こうと着飾り流行りの化粧をした女性や、アプローチの激しい女性には苦手意識すら抱いていたのだ。

 後腐れない相手と遊べる学生時代とは異なり、就職してからは結婚を意識した女性からあからさまなアピールを受けることが多くなっていく。
 課長職へ就いてからはギラギラした肉食女子の相手をするのが面倒だと、キッチリとオンオフで切りかえるようにして冷静沈着な斎藤課長のキャラを作り上げた。

 そんな斎藤隼人が女性の足に触れて性的興奮を覚えたのは、思春期の入口に足を踏み入れた中学一年生の頃だった。
 夏休みで遊びに行った祖父宅で久々に会った年上の従姉の足に偶然触れた時、滑らかな肌とチクチクしたムダ毛の感触によって初めて感じた股間の昂り、それこそ隼人が大人の階段を上った瞬間、精通した瞬間だった。

 中学一年生で女子の顔よりも足が気になるようになってしまった隼人は、理想の足を持つ女性を求めて輝かしい女性遍歴を築くことになる。
 同年代と年上の女性は、当然だが身だしなみを気にしてムダ毛の処理をしていることが多く、理想な足を持つ女性にはなかなか出逢えない。

 もう理想の女性との出逢いのを諦め、真面目に婚活でもしようかと見合いを考え始めた頃、海外赴任を命じられた。
 海外赴任中、友人の紹介で出会ったのは少々垢抜けない白人女性。
 お洒落に疎い彼女は隼人の理想に近い足をしており、性格も穏やかで一緒に居ると心が落ち着く。
彼女とならば、少しばかり変わった自分の性癖を受け入れてくれるのではないかと、思い始めていた矢先に一週間の出張を命じられた。

(出張から戻ったら、一年後一緒に帰国してくれないかと、彼女に言おう)

 だが、出張から戻った隼人を笑顔で出迎えた彼女の姿に違和感を覚える。

『見てハヤト、貴方のために綺麗になりたいと思って脱毛したの』
『えっ』

 彼女の口から衝撃的な一言を告げられ、頭の中が真っ白になっていく。
呆然となった隼人の目前に立つのは、流行りの化粧をして大胆に足を出した服を着た、理想の範囲から外れてしまった女性だった。
 隼人の中で何かが切れて音を立てて崩れていく。

(俺の理想とする足と、本当の好みを理解してくれる女はいない。ならば、全力で出世して若い女を俺好みに育てるか)

 芽生えた暗い感情が、心に墨汁を塗りたくったようにどす黒く染めていく。
 以後、対外的には紳士を演じる隼人の女性を見る目は厳しく、慎重になっていった。



 ドンッ!

「うぎゃっ」

 曲がり角でぶつかった女子社員は、色気の無い悲鳴を上げて思いっきり床に尻もちをつく。

(はうっ!?)

 彼女とぶつかった際、偶然隼人の手の甲にストッキングを履いていない脹脛が触れた。
久し振りの剃りあとの感触、ムダ毛の感触に背中がゾワリと泡立った。

「君は……?」

 驚きと感動で震えそうになるのを抑えて、喉から絞り出した声は若干震えていた。

 薄い焦げ茶色の髪を後ろで一つに纏め、アイボリー色のカットソーに紺色タイトスカートという一見すると地味な装いの女子社員。
彼女は顔を上げて隼人の顔を見ると、ぽかんと口を開けて数秒間固まってしまった。

「えぇ、課長?」

 女子社員の声で我に帰った隼人は冷静を装い、ずれた黒縁眼鏡を押さえてコンビニ袋から転がり落ちたストッキングを拾い、ストッキングと彼女を交互に見て眉を寄せた。

「あぁ! す、すみませんでした!」

 慌てて立ち上がった女子社員は、隼人のワイシャツにコンビニで買い片手に持っていた珈琲カップの中身がかかってしまっているのに気付き、ギョッと目を開いた。

「お怪我は? それにシャツにシミが、あ、あの、クリーニング代は出しますから」

 泣きそうな顔になって必死で頭を下げる彼女に言われて、シャツに珈琲がかかったことに気付いた。
 何人か前の彼女に貰ってから気に入って買っている海外ブランド製のシャツ。
値段はそれなりするものだが、シャツの染み以上に気になることが出来てしまった今、こんな染みなどどうでもいい。

「あ……これくらい、いいよ。替えのワイシャツは持っているしね」

 首を動かして、ワイシャツの染みをチラリと見た隼人は何てことないかのように言い、拾ったストッキングを麻衣子へ手渡す。

「それよりも、君の方は大丈夫だった?」
「は、はい」
「じゃあ、気を付けるんだよ」

 不安そうに見上げてくる女子社員へ、震えそうになる口元を動かして何とか微笑むと彼女へ背を向けて足早に立ち去った。

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