エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
「ちょっ?! また破かないでよ!」
「この前の分と合わせて弁償するから。麻衣子さんの足の感触が忘れられないんだ」
「かん、しょく?」

 思いもよらない言葉に、麻衣子は何度も目を瞬かせる。

「俺は……女性の足の毛を剃って処理した後の、伸びてきた毛の感触と滑々の肌の感触のアンバランスさが堪らなく好きなんだ。廊下でぶつかった時に偶然触れた君の足の感触は、もう最高だった。あの後、興奮のあまり我慢出来ずにトイレで処理していたせいで会議に遅れてしまったんだ。遅刻理由を誤魔化すのが大変だったよ」

 一気に話し終え、はぁ、と息を吐きながら斎藤課長はストッキング越しに左太股から膝にかけて撫でる。

「毛? 肌とのアンバランスさ……?」

(あ、これは駄目なやつだ。この恍惚とした顔は絶対にヤバい、この人は変態(ほんもの)だ!)

 そう思ってしまうと生理的な恐怖が湧き上がってきて、麻衣子は鳥肌が立つ左手を助手席側ドアのグリップハンドルへ伸ばす。

「今度は逃がさない」

 グリップハンドルを掴んだと同時に、運転席から上半身を動かし覆いかぶさってきた斎藤課長の唇が、拒絶の台詞を吐き出そうと口を開いた麻衣子の唇を食むように塞いだ。

「んっんんっ」

 角度をかけて唇を食む執拗なキスに、酸素が足りなくなってきた麻衣子は斎藤課長の胸を軽く押す。

「あっ」

 息を乱す麻衣子が空気を取り入れたのを確認し、キスを再開した斎藤課長は開いた彼女の下唇を軽く食む。

 いつの間にか助手席の背凭れに背中を押し付けられていて、クリップハンドルを握っていた麻衣子の左手から力が抜け助手席の座面へ落ちた。

「は……うぅん」

 今まで彼氏だった相手との軽いキスの経験はあっても、食後のキスは好きではなくむしろ嫌いだった。
 それのに、斎藤課長とのキスは甘い疼きになって麻衣子の体の熱を上げていく。
 気が付けば、彼のキスに夢中になって応えていた。

 狭い車内、助手席という身動きが取りにくい場所で見目麗しい男性に押し倒されている状況。
 互いの荒い息遣いが耳元で聞こえ、麻衣子の興奮が否応なしに高まっていく。

 麻衣子の体から力が抜けきった頃、やっと満足したらしい斎藤課長は上半身を起こす。

「はぁ、はぁはぁ」

 肩で息をする麻衣子の左手を握り、斎藤課長は指先へ口付けた。

「麻衣子さんには、彼氏か好きな男はいるのか?」

 呆けた思考の中、最後に付き合った彼氏の顔を思い起こして、麻衣子は首を横に振る。
 最後に付き合った彼氏とは就職してから半年後には別れていた。
 以降、ここ二年は恋人候補となる男性との出会いすらない。

「じゃあ、俺に情けをかけてくれないか? 君の姿を見る度に足の感触を思い出して、もう限界なんだ」

 そう言った斎藤課長の頬は赤く、いつもはきりっとしている眉尻は下がっていく。
 膝に当たった彼の股間は硬く熱を持っていて、興奮しているのだと主張しているのが分かる。
 あからさまなアピールに、麻衣子は頬を赤く染めた。

「課長……」
「駄目?」

 困惑する麻衣子の左手を握る斎藤課長の手に力がこもる。
「嫌です」と断ったら泣き出しそうに見えて、自分よりも年上の男性なのに縋りつく様が可愛く思えてしまう。

 何てあざとい男なんだ、と頭の中では分かっているのに、子犬のような庇護欲を擽られる表情には逆らえず、彼の頬へ右手を伸ばしてしまった。
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