こんなのアイ?





 電話やメッセージでなくきちんと話すべきこと。だが、その後1週間は年末年始に向こうで会った中国人と本社で商談が続き身動きが取れず、愛実に会いたいとメッセージを送ったのは百貨店へ行った10日後のことだった。だが彼女は、仕事が忙しい時期だ、仕事以外の講座を受けるので週末も多忙だと丁重に断ってきた。そうなるわな…溶かしてやるはずが頑なにしてしまったのは俺だ。

 愛実の仕事終わりを狙いマンションへ行くが応答がない。マンションで待ってるとメッセージを送ったが、その日彼女からの返信はなく彼女は帰って来なかった。克実のところかと思い、翌日は俺のマンションの隣のマンションで帰りを待つ。だがその日も愛実は俺の前に現れず引き返そうと思ったとき車がマンションに入る。克実だ。

「すみません、中埜克実さんですね」

 そう声を掛け俺の名刺を彼に手渡す。

「こんな夜遅くに何か?」

 こうして正面から見ると克実は愛実ととてもよく似ている。愛実が克実に似ているのか…

「愛実さんにお会いしたいのですが、会えていなくて…こちらにいらっしゃるかと思い夜分に失礼ながら声を掛けました」
「会えないのが愛実の意思表示なのではないですか?」
「私に非があることを直接謝りたい。誤解があるなら解きたい…わかってもらえるまで」
「ここにはいませんよ」
「今夜は彼女のマンションに?」
「さあ?ここに来る時には連絡があるが今日はない。それ以外は知りません。皆藤さん、ひとつ伺っても?」
「はい」
「愛実から私の勤め先の北川院長の娘さんに声を掛けられたと聞き、北川さんに尋ねたんですよ。どうして愛実を知っているのかと。まあ、病院で私と一緒にいるところを見かけただけらしい…そこまでは良かったんですが」

 克実の表情が険しくなり、彼は先ほどまでののらりくらりとした雰囲気を一変させた。
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