こんなのアイ?





 1月も20日になると早い方は確定申告に必要な書類を提出して下さる。大抵は12月のカード利用明細が届く2月以降なので、1月に出して頂いた方の書類には喜んでその日に取りかかる。今日は15分くらい残業して事務所をあとにする。

「愛実」

 昨日珍しく雪がぱらついたほど今週は寒い。その中で歩道のガードレールに腰掛けていた悠衣が、コートの襟を立てポケットに手を入れてこちらに来た。

「お疲れ、愛実。少し話を聞いて…俺、謝らないといけないことがあるから聞いて欲しい」
「それで…この寒い中、待ってたの?車は?」
「愛実を確実に捕まえる方法は歩き」
「…謝るって私がブレントと二人じゃなかったって…勘違いしていたってことでしょ?」
「ああ、それもひとつ」
「大丈夫だよ。気にしてないから、わざわざありがとう」

 にこりと笑みは作れたと思う。話は終わったと駅に向かうと悠衣がついてくる。

「愛実、大丈夫じゃないだろ?俺が傷つけた…とにかく話をさせて欲しい。カフェでも…」
「申し訳ないけど、駅までの3分でお願いできる?早く帰りたいの」

 彼の声と言葉は私を落ち着かせるもので安心できる存在だったが、身に覚えのないことを疑われるというのはこんなにもショックなんだ。一人で考えていた時よりも今、彼の声を聞く方がなんだか悲しくなってくる…私が信じようとした人に、以前は浮気され今度は疑われ…つくづく見る目がないのか騙されやすいのか…落ち込んでしまうな。
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