こんなのアイ?





 俺のマンションに愛実が久々にいることに舞い上がりそうになる。彼女は俺が淹れた珈琲を啜りながら、おいし…と小さく呟き

「悠衣は料理するの?」
「出来ないことはないが今はほとんどしないな。ヨーロッパを回ってるときに簡単なものは作れるようになった。パスタとか…パスタだな」
「ふふっ…じゃあ週末うちで夕飯食べる?ここでは調味料とか揃ってないでしょ?」
「いいのか?」
「お仕事大丈夫だったら土曜日か日曜日にどうぞ」
「どっちもはあり?」
「…ありです」
「愛実…泊まりは…あり?嫌なことはしない」
「…うん」

 頷きながらそっと珈琲カップをローテーブルに置いた愛実の肩を抱き、頭に唇をつけたまま弾む声を隠せずに告げた。

「楽しみにしてる」
「うん…今日はこれで帰るよ。克実のところに帰るのが決定のような口振りだったし…」
「わかった、送る。明後日楽しみにしてる」

 彼女の頭にチュッと音たてたあと

「愛実がまたここに来てくれて嬉しかった。前にここに来てくれた時よりも今の方がずっと好きだ」

 と静かに伝えて立ち上がる。愛実は二人分のカップを手に立つとキッチンへ向かいながら

「…私も…」

 小さく、本当に小さく洩らしたような声が耳に届き、彼女の後ろ姿を追う。シンクにカップを置いた愛実をそっと後ろから抱きしめ

「こうして…触れても困らせてないか?」

 恐る恐る聞くと、彼女は頷き

「怖いんだけど…少し怖い…でも悠衣のこと好きなんだと思う。時間がかかって…それでもまだ中途半端でごめんなさい」

 申し訳なさそうに謝った。謝ることではない、少しずつ気持ちが動いてくれれば嬉しいと伝え、隣のマンションまで手を繋ぎ送り届けた。
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