こんなのアイ?
「おい、触んな」
僕の隣の悠衣が不機嫌に言うが
「うん?なんで?こんなに可愛いから触れたくなるよね」
と反対隣の彼女の頬をもうひとつまみしてから手を離す。悠衣の舌打ちと同時に電子音がどこからか聞こえてきた。
「あっバッグの中だ…食事中にごめんなさい」
愛実が席を立ち音源を取り出すとすぐ、もしもし?と話し出し
「えっ…そうなの?…うーん…だよね。車だったらすぐ行くんだけど…ふふっ…タクシーほどの物でもないし距離も…」
と何やら相談している。悠衣が彼女を手招きし‘車出すか?’と小さく聞くと
「あっ…紗綾ちょっと待ってね」
通話を一旦止めた彼女の説明では、今日紗綾は隣県の実家で用事があり帰りに名産の漬物をたくさん持たされたから自分の駅を通り越して愛実のところに持ってきた。しかし電車を降りたら雨だという。
「迎えに行こうか?」
悠衣の言葉を愛実がそのまま伝えて、彼は紗綾を迎えに出て行った。
「愛実、今日もごちそうさま。美味しかった」
二人になった部屋で彼女の頭を撫で伝える。
「良かった。もう少し不自由でしょうけど我慢してね」
「こんな美味しい思いが出来るなら続いても構わないよ。明日は克実のところだろ?1日会えないけど…また日曜日ね。週末は愛実はお休みで日曜日は僕が何か買って来るのを食べよう」
「…なんか申し訳ない…」
「なんで?買ったものでも片付けが出来ないのを助けてもらえるんだ。僕は助かるよ」
そして愛実に傘を借り悠衣たちが戻る前に部屋を出る。元々10時までには部屋を出ると克実と約束しているし、今はまだ9時にもなっていないが悠衣に送ってもらう気分ではない。愛実の傘をさし雨の中を歩くのも悪くないだろう。