空の表紙 −天上のエクレシア−
ガーネットは枕元から
スケッチブックを取り出す
パラパラめくると
ミサの子供、ライと描いた
何枚もの伝説上の生物の絵
今は学校に行っていて
この家には自分独り
…記憶を無くしていたのは
もう随分前からだ
ここに来る前は
山中の療養所に彼は居た
ふらふらと
野原を歩いていた所を
村の老人に声をかけられた
大戦後の療養所は常に忙しく
体力に問題の無かった自分は
日々畑を耕したり
シーツの洗濯をしたり
常に忙しい毎日を過ごしていた
そして
徐々にそんな日々も
穏やかになった春先
ロバに乗って行商人達がやって来た
国境の取締が、
やっと緩和されたらしい
療養所の人間も外に出て来て
雰囲気が久しぶりの
明るいものに変わった
布に拡げられた服、菓子、日曜道具など
片隅に少し角の丸くなった、
薄いスケッチブック
強烈に気になって、
手に入れて
毎日時間が空いたら絵を描いた
多分、自分は、記憶を失う前
絵かきだったんじゃないかと思う
…そういえば
変わった行商人だった
銀の髪の綺麗な男の人と
白タイツを履いてる奇妙な人
銀の髪の人は
モデルになって欲しかったな…
――――――――そんな頃
あのデカイ
眼帯をした男の人がやって来て
『こんにちは』
そう、声をかけてきた
暫く
この村の事を話した
穏やかな口調で
『いい絵ですね』
そう言ってくれた
だけどその直後に雪崩がやって来て……
そこからの記憶は無く
後にこの家で新聞記事を見て
彼の行方不明を知った−――――
…急に不安になって
ミサを迎えに行こうと思った
まだそんなに先には
行っていないだろう
帰りはライを迎えに行って
皆で買い物をするんだ
そうそう
花が欲しいな
確か、メイジ通りに、
ライがちょっと気になってるらしい
赤毛の女の子がいる花屋があるんだ―