空の表紙 −天上のエクレシア−
兄王とあまり似ている所が無い容姿と
砂漠の豪族に良くある名前の響き

明らかに母親が違うのは見て取れた
だが王が血族を絶やさぬ為
妾や第二夫人を持つのは
当たり前の事だ

とにかく避暑の季節が終わる
殴られた外傷以外に
以前からボロボロ気味だった体も癒えて
本当に王には感謝してもしきれない

次はどこに行こう
もうすこし夏の空気を楽しみたい

賑やかな所がいいな…


そんな事を考えていた時

「おはよう!!『白兎』!!
兄君がキミを
城仕えの坊主にしてくれるって!!」

朝一番にそう言いながら
部屋に飛び込んで来た弟君


「あの…その『白兎』っちゅーのは
俺の事ですか?」

「うむ!今までそちが
『坊主』で構わんと言うから
そう呼んでいたが
城でそれでは困るだろうと
俺が考えてやった!

『イナーバの白兎』と言う
東洋の刀売りがしていた神話とも
そちの逸話はピッタリだしな!」

「どんな御話…?」

「うむ!あのな!」

(…面白がるから
裏町でのケンカの話とか
散々しちゃったからなあ…
なんかロクでもない内容から
取ったくさいよね…。


「離れ小島に渡りたい白兎が居て、
海を泳ぐワニを騙して渡ってたんだけど
途中でバレて皮を剥かれるんだ!
赤裸にな!
そこに神様の集団が通って
助けを求めるんだけど
皆『海で洗え』とか嘘教えて
もう兎はひどい事になっちゃうんだ!」

(…トホホ。やっぱりねぃ…

「でも!」
と弟君は瞳を輝かせて続ける

「最後に通った神様が
『水で体を洗って、
柔らかい綿にくるまれ』と教え
すっかり感謝した兎は
ずっとその神の元に仕えるんだ!
だから そちも白兎の様に
これからもずっと
我が兄の為に励んでくれ!!」


後ろで青の王が微笑んでいる


―知らず涙が出た
はい。と答える以外に
どんな感謝が出来たろう


「…島を渡った白兎〜♪…か」

後から
弟君が必死に俺の処遇を
兄王に頼み込んだと聞いた

大戦で大きな怪我を負われて
寝込む事が多くなったから
謁見の布越しにしか
最近は話していない


「…王弟よ
なぜなのですか…」



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