空の表紙 −天上のエクレシア−








−ノアールは夜の街を覗く


「…だりぃ…」

呟いたその背中は
黒い袖無と皮のズボン

薄暗い橙色の照明の下
騒がしい音楽と喧騒な中
こめかみをけだるそうに押しながら
椅子を神経質そうに
足蹴にしながらガタつかせる少年

城下町
裏通りをもっと奥に進んだ
細い路地には
彼の様な若者がたむろする店が
幾つもあった

ルビナの働く店の辺りが
昼のメインストリートなら
彼の居るこの場所は
夜のメインストリートだ

夜毎
街灯の下には少女が立ち
ともすれば
御忍びと思われる黒い馬車が
高級娼館の裏口にこっそりと停まる



大戦後
大量に流入した移民への対策として
市民には
魔法印を使用した
登録番号制が導入された



貴族に対しては免除だが
「本人で有る」と言う領主からの判と
腕押す魔法鏝
痛みは通常無い


それが無ければ
この町で
真っ当な職に就く事は不可能だった

戦災移民の多くは
知り合いも無く流れて来る
だからここに居るしかないのだ



しかし彼は
生粋の自国生まれであり
証明も容易に取れる筈なのに
かたくなにそれを拒んで居た



騒がしい店の中
彼の周りには
派手な爪をした少女が群らがり

少年達は彼と同じ服を着て
それぞれ享楽に講じていたが
常に中心に座る彼の動向に
神経を傾けていた


「ねえノアールぅ。
頭痛いなら沈痛薬あげよっか?
はいこれー」


少女は薬包紙を一つ取り出すと
水と共に彼の前へ勧める

民間薬
どこにでもある物だ

それにチラリと目をやるが
手で軽く押し返す


「俺普通の効かないからいいや」

いきなり少年が立ち上がる

驚く周りを尻目につかつかと
出口に向かう

「リーダー!どこへ?!お供します!」



「…待ち合わせ」
それだけ呟いて
鈴の音と共に扉の向こうに消えた



―まだ
やり終わっていない事があるんだ


それが彼の本当の目的
不良集団゛NOIR゛は
いわゆる隠れ蓑


今はただの愚者と
世間に思われていても構わない





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