空の表紙 −天上のエクレシア−
「あんな奴が
本当にお前を大切にするとは
思えない…。
教えてあげよう。
あの男は舞踏会で色々な女性と
浮き名を流していてな…」
「だから!
何でそーゆー事をアタシに
…離してーーっ!!
フリートさん助け…!!」
――いつの間にか
フリートの姿は無く
ルビナはピッキーノに掴まれるまま屋敷
衣装部屋へと入る
箪笥が開いていた
そこへいきなり連れ込まれ
ルビナの体は硬直し
震えが止まらない
そして扉が閉じられる
―――暗闇の中
足下が揺らいだのは
震えの為かと思った
しかし
(…ホントに動いてる?!
―着いたのは、どこか地下の様で
冷たい風が
微かに吹いて来ている
ふいに
軋んだ音がしたので横を向くと
まるで御伽話に出て来る様な
真っ白い馬車がついていた
先導する白馬には
「フリート…さん」
馬上から微笑み
『ようこそ』と手の平で誘う
ピッキーノは馬車に先に入り
歓喜して
クッション等を居心地いい様に
パンパンと整えている
「ルビナ
貴女もいけないのですよ…?」
「え」
優しい瞳と声で
フリートは言葉を続けた
「…彼は幼いですからね
気持ちを受け取られ続ければ
それだけで期待してしまう」
「な…それは…!!」
「『大事なお客様だから』
でしょう?
しかし受け取る己の中に
それが当たり前になっていた自分が
いませんでしたか?
…事が起きた時
こうやって頼って来ているのが
その証拠だ
彼は自分の為なら動くと
当然の様に確信して走った
そして今、利用出来ないとなれば
そうやって、強く拒否する
恐くなって逃げたくなれば私を
…他の男を頼った」
「っ…」
ルビナは言葉を失い、両手を強く握る
…全てを否定は出来なかった
確かにピッキーノなら
動いてくれると思ったのは
確かだからだ
そしてフリートは
別人の様に冷めた眼で
鞭を指す
「―馬車に乗りなさい
貴女に選択権は無い
…自業自得だ」