空の表紙 −天上のエクレシア−
−そして昼間のアクアスと言えば
まず
門前でのやりとりがあった
フリートから手渡された手紙を確認すると
メイドは恭しく会釈した
「はい。
確かにフリート伯爵様からの
お使いの方ですね。
それではアクアス様
こちらへどうぞ。」
この日差しの中で青々と豊かな芝生
良く手入れされた
巨大な白薔薇のアーチを抜けると、
中心に神話の三女神を模した
ブロンズ像がある噴水
それを中心にして
真っ白なクロステーブルが六つ
それぞれに
贅を尽くした料理と
鮮やかな果実が並べられている
笑いさざめく貴婦人
立派な紳士達は
近くを通るアクアスを一瞥するだけで
また笑い声を上げて
元の会話に戻って行く
「何かあれば
近くの召使にお声を」
そう言うと
案内してくれたメイドは
頭を下げて去ってしまった…
小楽団が管楽器を奏でる中
会話を聞いて見れば
経済やら避暑地での予定
今流行の服の話など…
物心付いてから
剣の道しか知らないアクアス
話した所で話題に乗れる筈も無い
なんとなく
萎縮してしまって
「きれいな花だなあ」等と
独り言をいいながら
輪から離れて
ウロウロし始めてしまった
(…これ渡したら
帰っちゃったっていいんだよな…)
包みを見つめて溜め息をつく
「あ〜…」
使いな訳だから
直接渡さなきゃいけない
でもマドゥー様て誰だろう
知らないし…。
メイドを探してみるが
誰も彼も忙しそうで
声を掛けるのに躊躇してしまう
少し
泣きそうな気分になって来たその時
「あの人だよ」
「え」
途方に暮れていたアクアスの上から
竪琴の爪弾きと、不思議な男の声がする