空の表紙 −天上のエクレシア−




―――――神殿の扉の前


ガラはきつく
フリートを見据える


フリートは
その時を思いだすかの様に
神殿を見上げ、扉に触れた


「…あれはまだ
青の王の父上の時代

戦乱時代の真っ直中だ

――体が弱く
父に抱かれたまま
ここへ来た私は
まだ幼かったし、

もうすでに唄歌いをやって居た貴女も
幼かった……



――――立派に役目を果たす貴女と
戦乱時代
お荷物の様に父に抱かれるだけの私は
なんて違いなのだろうと

…だから顔も、ずっと俯いていた


青の王の父上は
生前私の父と親しかった
二人で戦場を駆け巡る戦友

王と共に勝鬨を挙げて
凱旋門をくぐる父は
私の憧れだった

…王というのは孤独な生業だ
いつ敵国に攻め込まれるかの
精神状況
まわりは自分に期待し続ける

そんな日常から
ほんの少し抜け出す為
王と父はここにやって来て遊んだ

三百年余続いた
太平の時代がお気に入りだった様で
部屋で伏せがちだった私に
『桜の花を見よう』と誘って下さった


だが私はそこは嫌だと言った

…『本』の中では
ここでは頼りない私の体も
そこでは自由が利くと言う

ならば私は
王や父と共に
戦場を駆け抜けてみたかった

……最高でした

中での事を
興奮して語る私に
族長も皆もこう言った
『現実でも
そんな風に動ける様に頑張れ』と

…その日から
夢を叶える為に私は努力した
体も強くなり剣も極めた!!

…なのに…


世の中は変わってしまった…

騎士の時代の終焉
剣士は軍と言う下働きに成り下がり
日々やる事と言えば門の人の出入りと
形式だけの書類の整理

…ふざけるな…!!
私が目指していたのは
こんな世界じゃない!!

…だから造るんです
彼が旗印だ…。

混乱した世界を造るに
あれ程の適任は居ない…
私には最高の王だ…!!」


両手を広げ
笑い声をあげるフリート
引き付けを起こした様に
腹を抱え、のけ反る




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