空の表紙 −天上のエクレシア−
―――― 暗雲立ち込める城
青門の前には
夕刻になっても
避難しきれずにいた民衆と
貴族の群れが奇声をあげていた
「だから命令は受!」
「……命じよう
直ちに門を開き、民衆を城の中へ」
―アクアスを蹴散らした門衛
その覆いかぶさる巨躯の影に
一瞬怯んだ
だが
すぐに敬礼し
声を挙げ号令をかけた
「ジーク・F・ルード中級三隊
上位第四階級
主天士隊長の命により
青の門、四の夕刻を以って
ここに開放する!!」
子供を抱えた父親
老人、貴族の夫婦
普段なら相対しない層が
廊下を走り渦を巻く
ジークの誘導を頼り
兵達は民衆を誘って、
今まで来た事も無い
城の地下、最深部に降る
――暗闇の中に聳える
磨き上げられた鏡の表層
ジークが何事が呟くと
それは振動しながら、
ゆっくりと重く
観音開きに動いて行った
「ジーク殿…こ、これは?!」
やはり
ここまで来たのは初であろう
下級兵士が呟く
「…『シェルター』だ」
「伍長!!怪物が城の中にも!
とまりません!!!」
「何?!」
「…白兎達は」
「ジーク様?!あ…何でも、
女を集めろとかで…」
伍長が唇を噛む
「…諦めた…のか」
敵の手は激しくなり
地響きと共に、城の何処かを
潰された音がする
「くっ…」
「伍長
…どの位もたせればいい」
「え…あ
五分…いや…三分でいい!
扉が閉まる迄の時間を!!」
爆風がやって来た
饐えた匂いも漂う
「…どこか燃え始めたな
貴方も中へ」
「…し…しかし!!」
轟。と空気が唸る
目の前に瓦礫を伴って
赤い髪の巨大な顔が
喋りながら逆さに降って来た
『兵隊〜 ギら‘いダ〜〜』
「ヒィイィイイイ!!」
転がる様に
伍長が中に入ったのを見届けると
斧を捨てた
ジークの躯から、赤い光が立ち上る
機械仕掛で閉まる筈の巨大な門を
背の肉をドクドクと奮わせ
渾身を込めて押す
生きて光る黒眼が
紅く光るそれを越えて
深い真紅の光彩に変わる
―その咆哮は
厚い壁の彼方へも轟き、響いた