空の表紙 −天上のエクレシア−



「フリ…!」

アクアスそう言いかけて
出した手を引っ込める


フリートの
輝くばかりだった白銀の鎧は
黒い血墨と泥に汚れ
銀糸の髪はばらけ張り付き


悪魔と戦う聖堂の
絵画の御遣いの様だと思った




しばしアクアスは
その光景を見つめる



…俺を騙し
皆を傷付け…それなのに俺は
…まだこの人を美しいと思ってる…


…どうしてだろう……
あんな場面を見ても
やはり俺は隊長を嫌いになれない…




―空気がふと緩んだ。



「強い敵とやるのはとても楽しい」


前を見たまま
フリートは誰に言うともなく口を開く


「――とうてい敵わない敵を
前にした時
人は欲も体裁も全て抜きで
ただその敵を倒す為だけに動く―
私はその瞬間の美しさに
魅入られてしまった…」


「隊…」

「…この船はどこへ行くんだろうね

…我々の世界にこんな乗り物は無い
扉の中に入ったら
ここにいた ふふ」


少しこちらを向いて微笑んだ横顔は
月下花の様にはかなげだった

まるで何かに打ち据えられても
まだ輝くあの白い月の様だと思った



アクアスは思い切って叫ぶ

「隊長!一緒に帰りましょう!!
そしてまた皆で…!!」


「無理だよ。」

「そんな…!!」


「何が一番無理ってね

もし…『本』の力を使って
「何も無かった世界」に
戻せたとしても


…私が変われない。

本の光など浴びなくても、
産まれながらの『心の異形者』は
居ると言う事だよ

…ピッキーノ
彼は寂しいだけの子供だ
そして私の犠牲者
許してやって欲しい」

そう微笑むと
ツイと踊り場に上がる


「フリート隊長…?」




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