空の表紙 −天上のエクレシア−

そこで、眼帯の巨躯が出迎えた


「今ルビナの声がしたが」

「うむ…。花とな。
何やらこれはジャム?の様だ。」


イザベラは、花束と共に渡された
小さな小瓶を
一度、手の平で香って
前に差し出す


ジークは
それをツイと見やると呟いた


「豆を、火を絶やさずに
三日三晩煮る

家庭で作る滋養薬だ
…お前にだろう」



「…そう…か
三日三晩も………」

イザベラは涙を流し続けた

「―わかっていたのだ…。
ただ羨ましかったのだ…。

わたくしが…
隣国から戻って来たのも、
ずっと交際して居た男と
別れたからなんだ

…それまでピッキーノの事は
思い返しもしなかった…。

そなたから見ればピッキーノはおかしな奴だろう…。

それでも…
己が見えなくなる程愛す者がいる…。
そして…ルビナが羨ましかった

…相手はピッキーノで無くても
良かったのかもしれん…。」


ジークは黙って部屋に入り
ピッキーノの眠る
ベットの横にある椅子に座る


「はは。すまん。愚痴を言った。

…しかしピッキーノは
いつになったら目覚めるのだろう…。
ずっと夢を見て居るらしいのは
判るのだが…。」



幸せそうに、時折笑うピッキーノ

「ジーク。
お前も帰れ。
私もこの、ルビナが丹精込めて
作ってくれた薬を飲んで
少し眠るよ。

見舞い。ありがとう。」


「…ああ」


ジークは黙って席を立ち
扉を開けるが
閉め際に、呟いた

「…もしピッキーノが目覚めて
本当に周りに誰も居なかったら
俺を呼べ

…人は、逃げ場が無ければ壊れる」


「待てジーク!
お前こそ行く所はあるのか?!

…異形化。
結局力は返せなかったんだろう?!」



―――キィと扉が締まった。





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