空の表紙 −天上のエクレシア−
「サリュ様ー!
夕食でございますよー」
高い塔の上の夕刻
ユピがいつもの様に
食事を運びに部屋へ入ると
灯も無く真っ暗だった
「眠ってらっしゃるのかな…?」
天蓋の外から律義に一礼して
部屋を退出したユピは
首の後に
−−冷たい感触を覚えた。
蝋燭の燈火だけの螺旋階段を
冷たい感触に促されるまま下る
わかっていた。それが誰なのか
「…下には兵がいます…
こんな事お止め下さいサリュ様…」
「どこに何人?」
サリュは
紙に書いてあった文章を反芻する
(…塔の天辺に月が留る頃、
オレの仲間が下で騒ぎを起こし
引き付けます。)
− 階下の
木の分厚い扉の向こうから
話し声が聞こえる
「…が起こったので今は詰所に3人…」
(青い指輪の石をずらし
中の粉を
詰所の木戸下の隙間に撒いて下さい。
そして粉の上に冷たい水を。
即効性だから
絶対に吸わない様注意して。)
サリュはユピの首に押しつけていた水差しを見つめた
―数分後―
ためしに木戸を叩いて見る。
…そっと扉を開けると
床に屈強な男達が倒れている
横を走り抜け、目の前の
外界へと続く扉を
思い切り押した
天上の見慣れた星
そして高台の丘から
森の向こうに見える
遠い地上の星の粒
「…ま ち…」
目を見開き
それに向かって
サリュは、深い闇の中へと
駆け出した