空の表紙 −天上のエクレシア−
−−夜の街
ノアールは頭痛のイライラから
店を出たものの
待合せには多少時間があった
彼は懐からそっと、古い短銃を出すと
切なそうにじっと見つめる
軽く親指で回すと、
少し違和感を覚えた
「弾倉の回りが悪いな…
修理に出そうか」
誰かに語り掛ける様に呟く
踵を返した彼の表情は、
また醒めた物に戻っていた
――――――――
ルビナの働く商店街から
城に向かって暫く歩くと、
若者が好む雑貨や
服飾品店が軒を連ねる通りになる
ここはメイジ通りとも言われ
魔法使いや占い師達の店も多くあり、
休日などは若い娘達が
恋占いにつめかけ、
ノアールも知り合いの素人楽団が
小屋で演奏する時などは足を運ぶ
ひとけの無い
夜の建物の群れを進む
足をとめたのは
五階建ての煉瓦の建物の前
比較的新しいのは地表だけで
地下に降りると階段の壁には
いたる所に古い楽団発表会の
広告が貼られ、
その上にまた新しい
人員募集の広告等が貼られていた
一番地下まで降りると
黒塗りの扉の上に
青い炎のランプ
暫く見て居るとオレンジに変わり
自然の炎では無く、魔術による物と解る
扉には「魔法屋GARA」と
夜行虫の甲羅で細工された文字が
碧色にぼんやり光っていた
扉には
ノブの挿し口はあるが
取手は外されている
視線を移すと丁度目線の辺りに
銀の突起物があり、それを押す
するとどこからか
嗄れた声が響いて来た
『…ひひひ 久しいね。丁度良かった。彼が来ているよ。お入り』
「彼?」
『あ。毎回いっちゃいるが
魔方陣の中では目を開けるなよ』
「わかってるって。ばあさん!」
きゅっと
目を閉じるノアールの足下を中心に、
円状の青い光が走る。
すぅっと落下する様に
そのまま下に吸い込まれていった